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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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H.-7

ゆっくりと抱き締められ、そしてその腕に力が入る。
あの時されたキスより心地よいと感じてしまうのは、何故だろう。
「そーゆートコが好きなの」
「え…」
「いつも、誰かに何かを思って生きてるトコ。…だから、何に対しても泣いたり怒ったりするんだろ?」
「……」
「お前が誰かのこと思って、歌ったり笑ったりするの見るとさ、俺も幸せになるんだよ」
陽向は瀬戸の言葉に耳を傾けた。
なんの拒絶もせずに。
「患者と五十嵐湊が羨ましいよ」
陽向は何も言わずに瀬戸の背中に腕を回した。
それに応えるように、さらにきつく抱き締められる。
「お前のこと好きだった…ずっと」
「……」
「叶わねーと思ってたよ。病棟来てからも、お前に彼氏いるって噂広まってたし、病棟じゃぶっきらぼうだし」
「ごめんなさい…」
「ははっ。『ごめんなさい』とか言っちゃうトコも可愛いよな。そーゆーのズルいって言うの!」
瀬戸は陽向の頭をグシャグシャと撫でて笑った。
一瞬、その笑顔にドキンと心臓が疼く。
「一つだけお願いしてもいい?」
「…はい」
「もっかいだけでいい。…キスさせて」
色っぽく微笑んだその瞳にノーとは言えなかった。
頭を優しく撫でながら深いキスをされる。
瞬く間に、ほんの数秒ではない長いものに変わる。
「やだって言えよ…」
「…んっ」
今まで嫌いだと思っていたのに、ついに頭がおかしくなったか。
瀬戸に何をされても何の拒否反応もなかった。
むしろ、もっと抱き締めて欲しいとさえ思ってしまっている自分を殴りたい。
「風間……今日だけ…陽向って呼ばせて…」
「ん…」
陽向は潤んだ瞳で瀬戸を捉えた。
今まで見たことないくらい優しい顔をしている。
そのまま抱き上げられ、ベッドに仰向けにされる。
「陽向…」
今までとは違った吐息に羞恥が過る。
「誰にも言わない…?」
「…言えねーよ」
瀬戸は優しく微笑み、陽向の首筋に唇を寄せた。
そして、耳を攻められる。
身体かピクンと反応し「…っあ」と声が漏れる。
「耳、弱いの?」
「ん…」
「可愛い…ホント」
瀬戸は陽向の小さな手を握って耳や首筋を舐め回した。
「陽向」
「はい…」
「一回だけでいいから…嘘でもいい…。『好き』って言って…」
「え…」
陽向は切なそうに微笑む瀬戸を一瞬見て目を逸らした。
自分の顔は多分、恐ろしいほど真っ赤に違いない。
「あ…えっ……」
「お願い」
「せ…瀬戸さん…」
「薫だろ」
「なんでっ…」
瀬戸は陽向の顔を両手で包み「ちょー可愛い。顔真っ赤」と笑った。
「からかわないで下さい!」
腕を叩くと瀬戸は楽しそうな笑い声を上げた。
「陽向、お願い。言って?」
「……」
陽向は瀬戸の背中に回した腕に力を入れた。
恥ずかし過ぎる状況に何も言えなくなる。
言ってしまったら、好きになってしまいそうな気がして怖い……。
「薫……」
陽向は小さな声で呟いた。
胸に顔を埋める。
「すき…」
瀬戸がどんな表情をしているのかは分からない。
ただ「ありがと」と言って優しく頭を撫で、抱き締めてくれた。
無言のまま時が過ぎ去る。
瀬戸はそれ以上も以下もしてこない。
ただずっと、陽向の背中に手を当て、トントン…と一定のリズムを刻むだけだった。
「陽向」
「ハイ」
「顔見せて」
見上げると、おでこにキスをされた。
「ごめんな」
「え…」
「こんなことして」
「……」
「最後までしたら、お前のコト傷付けそう」
瀬戸は陽向の頭に手を滑らせて顔を寄せた。
気付いたら陽向は泣いていた。

湊への罪悪感。

一瞬でも心が揺らいだ自分が許せない。
「…おい」
「ごめ…なさい…」
「謝んなよ…俺が悪いんだから」
「でもっ…」
瀬戸は「ごめんな」と優しく頭を撫でてくれた。
「お前のこと好きだから……これ以上傷付けたくない」


日が暮れ始める。
陽向はやっと泣き止み、時々ヒクッと言いながら出された紅茶をすすっていた。
ソファーに並んで座っていると「俺さ」と瀬戸が口を開いた。
「五十嵐湊にライバル心ちょーメラメラだった」
瀬戸は何処だか分からない方向を見ながら言った。
「お前のコト好きだった。ずーっと。まさかあのライブに出てる奴が病棟に来るなんて思ってなかったし、それがワタルの弟の彼女だとも思わなかった。お前にキスしたのもくだらない嘘ついたのも、本気で自分のモノにしたいって思ってたからなんだよね」
「……」
「でも、結局お前のこと傷付けて泣かせてばっかで。五十嵐湊から奪おうなんてアホなことも思ったよ。俺のが勝ってるってずっと思ってた。……でも、あいつの方が俺より上だってことが分かって、お前のこと一番に思ってるのは俺じゃなくて五十嵐湊なんだって、今更だけど思い知った」


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