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忘れ得ぬ夢〜浅葱色の恋物語〜
【女性向け 官能小説】

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老夫婦-5

 その夜、家族で夕食を取った後、シヅ子は夫アルバートが自分たちの部屋に向かったことを確認すると、テーブルのはす向かいに座っていた息子のケネスに身を乗り出した。
「ケネス、話があるんや。この後時間作ってくれへんか?」
「え?」ケネスは丁度飲み干したワインのグラスをテーブルに置いて、いつになく真面目な顔をした母親に目を向けた。
「おまえに話しとかなあかんことがあんねん」
「ええよ」
 ケネスは少し戸惑いながらもすぐにそう答えた。


 シヅ子はマユミと一緒にキッチンに並んで食器を片付け終わった後、手を拭きながらマユミに言った。
「マユミはんも一緒にいてくれへんか?」
「え? いいんですか? ケニーと二人きりじゃなくても」
「あんさんもいてくれた方が気が楽やねん」
「わかりました、お義母さん」

 二人はケネスの待つ別棟のリビング入った。立派な暖炉を持つその広いホールのようなリビングの奥には落ち着いた色のオーク材のドアがあって、その中がシヅ子とその夫アルバートの部屋だった。

 シヅ子は店から持ってきた一箱のチョコレートをケネスに渡した後、夫アルバートのいる部屋に入った。
「ハニー」ロッキングチェアに揺られながら本を読んでいたアルバートは、老眼鏡の上からシヅ子を見た。
 シヅ子は部屋の隅にある本棚から古い一冊のアルバムを取り出した。
「ちょっとケネスたちと話してくるわ」
 アルバートは読んでいた本にまた目を落として言った。「昔話でもしてあげるんデスカ?」

「え?」シヅ子は手に取ったアルバムを胸に抱き、動きを止めた。

「行ってラッシャイ。ワタシ、ここで待ってマス。イツマデモ」アルバートはそう言って再び目を上げ、にっこり笑うとシヅ子に向かって軽く手を振った。


 穏やかな琥珀色の灯りに照らされたマホガニーの座卓には三つの白いカップが載せられていた。
 暖炉の薪の位置を直していたケネスは、その母親の姿をみとめると軽く片手を上げて微笑んだ。「おかあちゃんはこっちに座り。寒がりやから」
 ケネスは立ち上がり、母親に暖炉の前の場所を勧めた。ケネスとマユミはテーブルを挟んでシヅ子に向かい合い、並んで座った。
 シヅ子は暖炉を背にしてどっこらしょ、と腰を下ろした。

「親父、呼ばんでええんか?」ケネスが言った。
「ええねん。っちゅうか、あの人がここにおったら、ちょっとまずいねん」
 ケネスは怪訝な顔をした。「何や、親父に内緒にしとかなあかんような話か?」
「そういうわけやあれへんけど……」
 シヅ子は言葉を濁した。
「不意に顔出したりせえへんかな、親父」ケネスは振り返って奥の部屋のドアを見た。
 シヅ子はふふっと笑った。「心配ないわ。あの人、今読書に没頭しとる。毎日の日課みたいなもんやから」
「そうか。確かに読書好きやからな、親父」ケネスは小さく肩をすくめた。そしてシヅ子に目を向け直した。「何か飲むか? おかあちゃん」

「そやな……ウィスキーでももらおか。ロックで」

 ケネスは一瞬絶句して思い切り眉間に皺を寄せた。
「ちょ、ちょっと待ちいや、おかあちゃん、ウィスキーなんか飲んだことあれへんやんか。何血迷うとんねん」
 シヅ子はむっとしたようにケネスを睨んだ。「ええやろ。今、飲みたいんはウィスキーなんや!」
「あたし作ってきます」マユミが立ち上がった。


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