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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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G.-7

「おー、五十嵐。カノジョ、大丈夫?」
23時過ぎにレストランへ戻ると佐伯はしれっとした顔で湊を迎え入れた。
「大丈夫もなにも…髄膜炎で入院です」
「え?なに?」
佐伯は洗い物をしながら大声を出した。
「髄膜炎」
こちらも大声を出す。
佐伯は最後の食器を食洗機に置くと、水道の蛇口を捻って湊の方を向いた。
「はぁ?なんじゃそら。ヤバイ病気?」
「脳にある髄膜?ってトコに菌が入るらしーっす。よく分かんないすけど」
「脳の病気?」
「脳の病気なんすかねー?去年もなってましたけど2週間くらいで退院してました。でも今回は喘息もなんで少し長引くかもしんないすね」
湊は「ははは…」と笑いながら床にある段ボールの中からナスを手に取り、明日の仕込みを始めた。
「五十嵐」
「…はい?」
「お前明日からディナーだけな」
「え?…なんで」
まさかクビになる一歩手前か?
そんなに使えない人材なのか?
湊はビクビクしながら佐伯を見た。
明日からハローワーク通いか……。
「カノジョ元気になるまで、ディナーだけにしとく。面会行ってやれよ」
「え……でも…」
「ランチならなんとかなるから。田辺もようやく人並みになってきたし…お前のおかげでよ」
佐伯はニヤッと笑って湊の背中を叩いた。
「俺と似てんだよなー、お前」
「……」
「この後、ちと付き合ってよ」

閉店後、休憩室で今日の売り上げの確認と金庫への納金を終えた後、佐伯が冷蔵庫からビールの缶を取り出した。
「いつのっすか、コレ」
「たまに飲みながら締め作業してっからな。最近の」
「たまげた」
佐伯がガハハと笑う。
冷蔵庫の奥の方には大量のビールの缶。
自分よりもはるか上をいく、酒豪の大先輩だ。
缶ビールで乾杯し「仕事後のビールはやっぱ最高だな」と佐伯が言う。
「最高っすね」
他愛のない話から、仕事の話、プライベートの話まで…今まで佐伯とこんなに話したことはなかった。
佐伯の言葉のセンスや生き方、将来を語る姿は男としてカッコよすぎるくらいだった。
こんな器のデカい人間になりたいと密かに考える。
そして話は今日の出来事へと展開していった。
気付いたらテーブルの上に大量の缶ビールの抜け殻がずらりと並んでいた。
「カノジョのこと、大切にしてやれよ」
「佐伯さん、その言葉、もー5回目っす」
「え?もっかい言うよ?カノジョ大切にしてやれ!」
「あー6回目!」
2人でゲラゲラ笑う。
余韻もなく、静かな空気が訪れる。
「俺さ、好きな人亡くしたんだ」
佐伯は床を見ながらポツリと呟いた。
「え…」
いつだかに、バツイチという話は聞いていたが…。
「おととし、奥さん亡くしたんだよ。クモ膜下出血ってやつ」
「……」
「いつ離れ離れになるかわかんねーよな、この世の中。老夫婦見てるだけでも、お前らそんなに一緒にいられんの奇跡だぞ!って言ってやりてーもん」
湊が黙っていると、佐伯は「何しっとりしちゃってんのー?」と笑ってみせた。
「だからよ、体調悪ぃ時くらい側にいてやれよ。恋人の力は特効薬だぞ!」
佐伯に言われると、NOと言えない。
ただ、すみません…としか言えない。
「てコトで、明日からお前ランチクビな」
「はは、クビって」
「1ヶ月経ったら腐るほど働かせてやるよ。フライパン握れなくなるくらいに」
ゲラゲラとまた笑いが起こる。
「あ、そーいや佐伯さん…お子さんいるんすか…?」
「いるよ。5歳の坊主」
「え、じゃあこんな働いてちゃ相手できないっすよね?…俺、もっと頑張るんで佐伯さん休んで下さい」
「土日は無理に決まってんだろーが」
「いや…でも」
「いーのいーの!」
佐伯は湊の胸を押した。
「そーやってガキは育ってくんだよ。知らないトコで知らないコト覚えて、びっくりするよーなコト言うんだ。…自由に、でも人様に迷惑かけねーよーに生きりゃそれでいーよ」
佐伯の言葉に湊は黙った。
「育児放棄なんじゃねーの?それ。って思う奴もいるかもしれねーけど、俺はヤスタカのことを一番に愛してるし、あいつがいなきゃ俺の人生なんて終わったも同然よ」
会話の中で知る。
佐伯の子供はヤスタカという名前であるということを。
「幼稚園じゃさ、結構ヤンチャみたいよ。お袋に結構任せっきりなんだけど、昨日も女の子泣かせたり弁当ひっくり返したりしてたって。帰ったらガツンと言ってやんねーとな」
「ははっ。でも可愛い時期っすよね」
「そーそ。俺も頑張んねーとな、あいつのために」
フッと笑った佐伯の疲れた横顔が、父親らしく、そして男らしく見えた。


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