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性少女・絵美
【その他 官能小説】

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性少女・絵美-1

(1)


 定年後の生活を思い描くことは数年前からあった。
仕事や社会のしがらみから解放されて自分の好きなことに没頭する毎日。晴耕雨読もいい。ぶらりと旅に出るのも自由だ。時間を気にせずに余生を楽しむのだ。いや、余生ではない。第二の人生だ。これまでの手かせ足かせを取り払って自分らしい新たな生き方を目指すのだ。……それは、常に仕事を背負って生きてきた多くの男たちの願望でもある。

 だが、いざ定年を迎えてみると、身軽なはずの体も心も何とも不安定なことに気づく。そしてこれから泳いでいくつもりだった自由の海が幻だったことを知る。
 行動することは可能である。旅行することも、読書三昧に耽っても誰も文句は言わない。
 退職した夜、妻は心から長年の労を労ってくれた。
「おつかれさま」
少々値の張るワインを用意して笑顔とともに注いでくれた。
「これからもよろしく」
温かさを感じる感謝の言葉であった。
 
 二人の娘はすでに結婚して家を出ている。マンションのローンも完済した。妻は資格をとって、だいぶ前から介護職の仕事をしている。パートではあるが人手不足のようで、フルタイムに近い勤務状況である。贅沢は出来ないが、
(経済的に問題はない……)
それなのに、気持ちが塞いだように力が入らないのはなぜか。
(いろいろなものが欠けているんだ……変っているんだ……)
私はぼんやり煙草をふかしながら想う。

 まず、体力が落ちている。当然のことだ。若い頃、百名山を踏破したいと考えたこともある。いまではとても無理だ。釣りに凝ったこともあった。道具は押し入れに眠っている。出してみようとも思わない。忙しいから時間を作ったのかもしれない。つまり、溌剌と漲った若さ、気力が失せているのである。頭で考えるように体が反応してこないのである。
 これからますます体は弱っていく。だからこそ充実した日々を過ごさねば……。理屈はわかっている。わかっている。……

 それと、男にとって齢とともに衰えゆく性欲は物哀しく淋しいものである。仕方のないことと割り切れないのはすっぱりと性欲が失われないことである。欲はある。だが気持ちの高まりと体が合致しない。体力の衰えと同じである。それでも中途半端な反応があって、道行く若い女の姿態に目を奪われる。高まりを感じる心に虚しさが同居していた。

 妻とはここ二年、夜の関係はない。拒否されたことはなく、求めれば応じるとは思うが、徐々に回数が減り、自身の硬さも弱くなり、迸るものがなくなってくるとさらに気持ちが遠くなっていった。 
 一度、友人にもらった薬を試したことがある。たしかに漲って、忘れていた硬度は甦ったが、体を貫く快感は別のものであるようで、所詮、一時の昂奮でしかなかった。

 自室に簡易ベッドを入れてそこに寝るようになったのは半年ほど前のこと。妻が翌日早出の時など私より早く休む。
「起しちゃ悪いからこっちに寝るよ」
「ありがとう。でもあたし平気よ。熟睡しちゃうから」
彼女への配慮もあったが、何かもやもやしたものが時折鈍く心に渦巻くのが不快だったのである。
 ふと妻に触れたくなる。彼女は寝ている。たいして突き上げるものはないのに、抱きたくなる。そんな気持ちを堪えて眠るのが耐えられなかった。
(セックスがないのなら、一人の方がいい……)


 自分の部屋を持つに至った理由の一つは私の煙草である。まだ娘たちがいた頃、『喫煙所』として宛がわれたのである。島流し……。自分の家なのに、なぜ……。当時は本気で腹が立ったものだが、しばらくすると、自分だけの空間がいかに奥深く心地よいものかを味わうようになった。なにしろ、誰も踏み入ってこない私一人の世界なのである。
 どこよりも落ち着ける場所であった。一人でいる時でも私は自室にいることが多くなった。

 ある日、ふと想いが巡り、何気なく過去の女遍歴を辿った。
出張や慰安旅行の折、遊んだ女は四、五人いる。いい女もいた。
(雄琴温泉だったか……)
雪のように白い肌の女を抱いた。明け方までその体を貪って、なお離れ難い美しさがあった。源氏名は思い出せない。
 社内でも一人、不倫をした。既婚者であった。激しいセックスをする女だった。一年ほど付き合い、妻に不審を感じ始めた様子が見られた頃、彼女は夫の転勤で辞めていった。ほっとしたのを憶えている。
 結婚前に付き合った女は、三人。そのうち一人は結婚まで考えた仲であった。……
 さらに辿り、不意に勃起した。

(絵美……)
まさか扱いてもいない股間が反応するとは思わなかった。
むくむくといきり立ち、久しくなかった硬さになった。
 脳裏には次々と彼女の映像が浮かび、それは眩いばかりの鮮明さで私を圧倒した。
(どうしたことだろう……)
かすかな戸惑いの中、私は股間に手を当て、目を閉じた。
遠い昔のことである。忘れていたのではないが、埋もれてはいた。……
 鮮烈な記憶がさらなる漲りに繋がり、私は一物を引き出し、掴んだ。
 
  

  

 
 
 

 

 

 


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