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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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19章-1






『……美冬ちゃんは高校、行きたくないの?』




『朝までバイトしてでも通い続けていた高校だろう? 国立大の進学率だっていいとこだし、高校受験かなり頑張ったんじゃないの?』




『……美冬ちゃん、駄目だよこのままじゃ。ちゃんと自分の心と向き合って――』





 五月蠅い。

(うるさい、うるさい、うるさい――っ!!)

 美冬は両手で耳を覆って、頭の中で繰り返される言葉から目を背ける。

「………っ」

(高柳さんは、私と鏡哉さんを離そうとしているだけなんだ!)

 矛盾した思考が頭を占拠し、頭が割れそうにがんがんと痛い。

(私は鏡哉さんと一緒にいたい、ただそれだけなのに!

 なんで、どうして邪魔をするの!?)

 美冬はふらふらしながら壁に手を付き、リビングのソファーの上に倒れこむ。

「鏡哉さん、助けて……」

 思わず零れた呟きが、広い室内にむなしく響く。

 目が壊れたように涙が次々と溢れ、ソファーを濡らせていく。

 鏡哉と一緒に居られれば、この部屋の外に出なくても構わなかった。

 鏡哉に愛してもらえるなら、なんだって我慢できた。

(なのに、なのに

 私達はそんなに一緒にいては駄目だというの――?)

 美冬は髪がぐしゃぐしゃになるのも構わず、頭を抱える。 

 気を抜くと思わず叫びだしてしまいそうだった。

 唇を噛んでその衝動を耐える。





『駄目なんかじゃないんだ、美冬』





『私たちは愛し合っているんだ。駄目なことなんて何もない――』






 あの日自分を満たし、甘く拘束した鏡哉の言葉が浮かぶ。

 愛しい鏡哉の言葉。

 その言葉がまた美冬を捕え、その思考を上書きしていく。

 すとんと何かが落ちたように、荒れ狂っていた心が静まる。

「………」

(ああ、大丈夫。

 貴方がいれば、私、他に何もいらない――)

 美冬はソファーの上で自分を抱きしめるように丸くなり、目を閉じた。





 だいぶ長い間、眠っていたようだ。

 夕焼けの赤い日差しが、リビングのガラスから差し込んでいる。

 ソファーの上で目を覚ました美冬は、頭痛が引いていることにホッとし立ち上がった。

 バスルームに行き鏡を見ると、髪はくしゃくしゃで頬には乾いた涙の跡があった。

 少し瞼も腫れている。

 美冬は早くその姿を消したくて、ばしゃばしゃと冷水で顔を洗った。  

 鏡に顔に水滴を付けた自分が映る。

 それがまるで泣いているように見えて、美冬はすぐにタオルで拭う。

 タオルの中にため息を零す。

 今日は結局、勉強も家事も出来なかった。

 鏡哉が帰ってくるまでに、いつもの自分に戻らなくてはならない。

 高柳が来たことは言ってはいけない気がいした。

 言ってしまったら、今度こそ高柳は鏡哉に解雇されるかもしれない。

 タオルをギュッと握りしめた時、

 ピンポーン。

 呼び鈴が鳴った。

 美冬の華奢な肩がびくりと震える。

 とっさに鏡哉だろうかと思い、それはないだろうと打ち消す。

 鏡哉は鍵を持っている、インターフォンを鳴らす必要は無い筈だ。

(そういえば、高柳さん『また、夕方来るから』って――)

 どくり、心臓が脈打つ。

 ピンポーン。

 また呼び鈴が鳴る。

(どうしよう。高柳さんは顔パスだから、ここの玄関の前まで来てしまう)

 おろおろとしていると、玄関のほうから物音が聞こえた。

 美冬は恐る恐るバスルームから出る。

 玄関の扉が目に入った時、ガチャリとそれは外から開かれた。

「………」

 絶句した美冬の手のひらから、握りしめていたタオルが滑り落ちる。

 扉から入ってきた高柳に美冬は目を見開く。

「どうして――」

 どうして鍵が開けられたのかと問おうとしたとき、高柳の後ろから人影が現れた。

 暗めの照明の廊下から一歩玄関へ足を踏み入れ、その人物の顔があらわになる。

 美冬のいる廊下から玄関は数メートルの距離があったが、はっきりと見て取れた。

「………」

 足元から崩れ落ちた美冬の元に、高柳が駆け寄ってくる。

「美冬ちゃん、大丈夫?」



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