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愛しているから
【青春 恋愛小説】

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勇気ある撤退-5

「あ、じゃああたし飲みまーす」


高くて細い声に、思わず身体が反応する。


お、おい!!


慌てて彼女を見れば、今までずっと俯いていたはずの沙織が、小さく手を上げて立ち上がっているところだった。



沙織は、石澤さんや本間さんほど真面目真面目してる女の子ではないと思う。


薄くだけどメイクもするし、制服だってスカートの丈は石澤さんらに比べて短めだし。


だから酒を勧められたこのような場で、女性陣の中で最初に飲むとしたら沙織だろうとは思っていた。


でも、それはもちろん“いつもの”沙織なら。


俺とここまでこじれてしまって、傷ついて気まずくて、そんな最悪な状態の沙織が、まさかこんな状況で手を上げるなんて、夢にも思わなかった。


「おお、さすが沙織ちゃん、ノリいいね〜。何飲む?」


州作さんはすっかり相好を崩して、沙織に何を飲むのか訊ねていた。


「じゃあ、これ」


そう言って手を伸ばしたのは、銀色のボディに“asahi”と描かれたもの。


おいおい、それってビー……。


なんて心の中で呟き終わらないうちに、さっさとプルタブを開けていた。


「あっ!」


そんな早業に、思わず大きな声が出てしまう。


それほど、沙織の飲みっぷりは見事だった。


立ち上がって、勢いよく喉にビールを流し込む音がやけに響く。


そして、喉が止まったかと思うと、缶を下ろしプハーッと息をついた。


「美味しかった〜、おかわり!」


濡れた唇を人差し指で拭いながら、明るくそう言った沙織は、ニコニコ上機嫌で次の缶に手を伸ばしていた。


……ってか、一気飲みかよ!


呆気に取られている俺達を尻目に、沙織はそのままハイペースで飲み続けた。





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