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愛しているから
【青春 恋愛小説】

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勇気ある撤退-4

現に、


「ねえ、どうする?」


「ちょっとくらいなら飲んでみたいかも……」


なんて、本来ならイイコちゃんの部類に入る、石澤さんや本間さんまでもが、ヒソヒソ話をしている様子が目に映った。


重苦しい空気から逃れたかったのかもしれない。


だけど、それ以上に、大人のいない自由な環境が、きっと開放的にさせていたのだろう。


それでも手を伸ばす勇気はまだなさそうな彼女達。


こんな時、いつもの俺や修なら、いの一番に、


「じゃあ、いただきまーす」


なんて、悪フザケしながら缶を開けていたに違いない。


まあ、それは、俺と沙織がこじれてしまわなければ、の話なんだけど。


今の俺は当然ながら、そんなもの飲む気になんてなるわけがない。


州作さんが、沙織と二人で買いに行った酒なんて、誰が飲むかっつーの。




相変わらず誰も手を伸ばさない状況は、地味に続いている。


ムードメーカーであるはずの修が、最初に手を伸ばしてくれたら、このビミョーな空気も一気に氷解するだろうけど、肝心の奴が、難しい顔のままだんまりを決め込んでいる。


なんとかこの場を和ませようと、「さあ、さあ」なんてみんなに勧める州作さんの声すら空回っていた。


それがなぜか俺を苛立たせる。


この空回りだって、俺がここにいるからなのだ。


俺がいるから、修も機嫌悪いし、みんな腫れ物に触るみたいな態度だし、沙織だって気まずいだろうし。


もう、いいや。


アルコールという、思いもよらないモノの登場でみんなが少しそわそわし出しているのは明らかで。


俺が台無しにした夕飯のひとときを、州作さんがもう一度立て直す。


こんな時でも負けてしまった俺は惨めなことこの上なかった。


俺がいなくなれば、結果オーライなんだろう?


席を外してやるからみんなで盛り上がればいいじゃないか。


折り畳み椅子から、俺がゆっくり立ち上がった、その時だった。




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