投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

流転王子
【ファンタジー 官能小説】

流転王子の最初へ 流転王子 1 流転王子 3 流転王子の最後へ

1_出会い-2

 ヒューゲルとその妻フェミリアは、今頃長男のルビウスとともに別の場所で食事を取っている。
 グラウス達が父とともに食事を取らない理由。それは、彼らの生まれにあった。
 父のヒューゲルは浅黒い肌と黒い瞳、黒い髪の重厚な男。
 母のフェミリアは銀色の髪と早朝の東の空のような青い瞳。白い透き通る肌。
 その二人の子が、ブラウンの髪であったり金髪、赤い目であったりする理由。
 グラウスの母はブラウンの髪と気の明るい侍女。
 カリウスの母は黒い髪と赤い目の気の強い東方の女。
 ミリアムは、フェミリアを母に持つが……。
 彼らが父に会うことがあるとすれば、特別な日ぐらい。
 そのひとつが成人の儀。グラウスは両親に会える晴れ舞台までに兄を越える、少なくとも対等に立ちたかった。そのためにも……、
「エイミー、お代わり!」
「もう、お兄様ったら、お食事の時くらいお行儀よくなさってくださいな」
 ミリアムはまるで手のかかる子にするかのように彼の口周りを拭くが、グラウスはそれをうるさそうにするばかり。
「まったく、少しは静かにできないのか?」
「そうは言っても兄さん、腹が空いては剣を振るう活力が生まれません。なんとしても成人の儀までには一本取らせてもらいますから!」
「いつでも来い、返り討ちにしてやる」
「その言葉、忘れないでください!」
 グラウスは食べかけのパンに鹿のローストを挟むとそのまま食堂を出て行ってしまう。
「慌しい奴だ」
「お兄様、あまりグラウスお兄様をからかわないでくださいな」
 グラウスをからかうとミリアムがお小言をする。
「ふむ、ミリアム。お前はやけにグラウスの肩を持つな」
 あまりに妹がグラウスに肩入れするのをみて、カリウスは意地悪く笑いながら水を向ける。
「そんなこと……、あらいけない、今日は家庭教師の来る日でしたわ。それではお兄様、ごきげんよう」
 するとミリアムはみるみるうちに顔を赤くさせ、耐えられなくなったらエイミーにお茶を部屋に運ぶように頼んでそそくさと食堂を出る。
 無邪気に剣の勝負に躍起になる弟も、自分の気持ちに素直になれない妹ももう何日もせずに成人の儀を迎える。
 二年前の自分を思い出しても、こうまで幼くはなかった。しかし、現実は……。
 白い皿に乗ったハムエッグ。半熟の黄身にフォークを立て、ぐじゅぐじゅとかき回す。
 それに飽きたところでパンをちぎって浸して食べる。
 テーブルマナーとしてはあまり誉められたものではないが、カリウスはこうして食べるのが一番美味しいと思っている。当然、二人には内緒だが。
「そうだ、エイミー……」
「はい、カリウス様」
 エイミーは皿を片付ける手を止めてカリウスの傍へと歩み寄り、耳を傾ける。
「そんなカリウス様……、私めにそんな大役、第一、グラウス様にはもっとふさわしい女性が……」
 最初はフンフンと頷く彼女だったが、次第にはらはらとしたり目をきょろきょろと動かしたりと明らかに挙動がおかしくなる。
「嫌か? エイミー」
 彼女とは対照的に涼しい顔のカリウスは微笑を浮かべている。
「いえいえ、そんな、嫌だなんて……。ただ、恐れ多いと申しますか、私のようないやらしい侍女にそんなこと……」
 エプロンを掴んでモジモジとするエイミー。
 子供の頃からの世話を焼いてきたエイミーがグラウスにどのような気持ちを寄せているか? カリウスの細目は、しっかりと見抜いていた。
「いやらしいのなら適任だろう? 頼んだぞ、エイミー……」
 カリウスはそういうと青色の小瓶を渡し、食堂を後にする。
 残されたエイミーは後片付けも半端に、その小瓶を見つめていた。



流転王子の最初へ 流転王子 1 流転王子 3 流転王子の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前