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流転王子
【ファンタジー 官能小説】

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1_出会い-1

 狩場としても潤沢な森とファーレン山脈から流れ出る水のおかげで、人々の暮らしは大陸の水準を超えている。
 しかし、国風は剛健。勇猛な王、ヒューゲル・ラピス・ラズラードは先のイアンド共和国との戦では自ら先陣に立ち、勝利に導いた。
 国を守りし武人にして偉大なる王、ヒューゲル。その名は大陸全土、いたるところに広がったのだ。
「はぁ! たぁ! どうだ!」
 早朝、小鳥たちが囀るのが早いか、ラピス城中庭では二人の若獅子が木刀を片手に切り結んでいた。
 ブラウンの髪は激しい運動のせいで乱れているが、さらりと風になびく。
 真剣勝負のさなか、赤い瞳は鋭いが、普段は優しそうなカーブを描き、街を行く女を油断させる小ずるいもの。それは高い鼻とあいなって、誰も彼も振り返らせる甘いマスクをなす。
 彼の名はグラウス・ラピス・ラズラード。ヒューゲルの三男坊にして、この国の王子である。
「まだまだ、甘いぞ! グラウス!」
 グラウスが振り下ろした渾身の一撃を黒髪の青年は木刀の腹で逸らすように受け流す。
「わっ!」
 勢いの向きを変えられたグラウスの足元に青年の長い足がかかり、どさっと顔面から地面に倒れこむ。
「グラウスお兄様!」
 その様子を先ほどからはらはらと見ていた女の子が、グラウスの無様な転倒をきっかけに飛び出してくる。
 彼女の名はミリアム・ルピス・ラズラード。カールした金髪は走るたびにふわふわ揺れ、垂れめがちな瞳はまるでヒスイのような美しい緑。やや小さな鼻が美人というより可愛らしさを目立たせ、唇にすっと引かれたピンクのルージュが未熟な性が垣間見える。
 ドレスの裾を持ってグラウスのもとへと急ぐ様子ははしたないの一言だが、細い腕は普段太陽を嫌っているのか白く美しい。
 やや発育途上の身体はヒラヒラしたドレスの上からでは分かりにくいが、最近は侍女のエイミーにブラジャーを頼んでいるとか。
「もう、カリウスお兄様、もう少し手加減をしてくださってもよろしいのでは!」
 黒髪の青年。勝負がついた今も木刀を握る手には力がこもっており、細く鋭い視線は瞬きをせずにグラウスを見つめている。
 青年の名はカリウス・ラピス・ラズラード。ラピス王国の第二王子にしてグラウスの兄だ。
 彼は二人とは似ても似つかず、黒い髪に茶色い目。浅黒い肌をしていた。
 眼光鋭く、整った鼻とこけた頬。剃刀のような印象を抱かせる彼は、一番ヒューゲルの血を引いているといわれ、時期国王として国民からの期待が大きい。
「そうは言っても手を抜かれたのではグラウスも納得がいかないだろ?」
 まだ負けていないと言わんばかりの弟を前に、カリウスは木刀を構えたまま。
 グラウスが兄に稽古をつけてもらうのは毎度のこと。けれど、試合形式でというのは最近になってのこと。彼もまたヒューゲルの子であって、かなりの腕前だ。しかし、その父に一番近いと称されるカリウスには付け入る隙が無かった。
 グラウスとカリウスの評価は、
 まだ三年早い。あと二年は修練すべき。あと一年もすれば分からない。
 と、徐々に迫りつつあるのも事実。
 ただ、とうのグラウスには待てない事情がある。
 それは、五日後に控えているグラウスの「成人の儀」にある。
 成人の儀とはラピス王国に伝わる儀式で、数え年で十六になる王族のものは南方にある「ラピスの細石」と呼ばれる祭壇で行われる。その儀式を行うことが王位継承の条件であり、失敗したものはその席から外れるとされていた。
「ミリアム、僕は大丈夫。それよりカリウスにいさん、まだまだ行くよ!」
 グラウスが敵わぬと分かっていて兄に挑む理由。それは成人の儀を前にして、自分なりのケジメをつけたいから。
 物心つく前から彼の背中を追っていた自分。彼は賢く、強く、厳しかった。
 遠目にしか見ることが出来ない父ヒューゲルを重ね見ていたのかもしれない。
 成人になる前にそれを乗り越えたい。そういう理由。
「はいはーい、そこまでですよー! カリウス様、グラウス様! ミリアム様も朝食が出来ましたよー!」
 廊下から白のエプロンとブラウンのメイド服姿の侍女、エイミーは両手を口に当てて声を張り上げている。
「だとさ、グラウス。どうする?」
「決まってるさ!」
 グラウスは立ち上がるとぱっぱとズボンの汚れを落とし、エイミーの下へと走っていく。彼の唯一の欠点があるとすれば、それは食いしん坊なところだろう。
「もう、グラウスお兄様ったら、失礼しちゃうわ!」
 手を貸したにも関わらず自分に見向きもしない兄に腹を立てるミリアムはぷぅと頬を膨らましてご立腹な様子。
「ふふ、我々も行こうか、ミリアム……」
 カリウスは妹にはやけに優しく微笑むと、彼女の肩をそっと押した。



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