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流転王子
【ファンタジー 官能小説】

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1_出会い-3

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 エルジュランド大陸に古くから伝わる秘術の一つに魔法がある。
 火、水、風、土の精霊に鉱石を通して精神力を捧げることで、その恩恵にあやかるというものだ。
 本来誰でもが使用可能なのだが鉱石は希少であり、さらに使用にかなりの精神集中が必要とさる。
 つまり、結果的にあやつる人を選ぶのだ。
「なんか良い方法が無いかな……。正面からじゃ絶対敵わないし、かといって魔法は使えないし……」
 剣術に明るいグラウスだが、魔法の才能は無い。
 飽きっぽく、考えるよりも即行動というグラウスには、不向きであるのは誰しも認めること。
 ただ、今のように兄を倒さんとする方法を考えているときは周りが見えないぐらい集中しており……、
「あ、お兄様、もうすぐ先生がお見えになる時間ですわよ?」
 すれ違うミリアムの声にも、ちっとも反応を示さない。
「お兄様!」
「うわ!」
 彼にとっては唐突に現れた妹に飛びのいてみせるグラウス。彼女は腰に手を当てて頬をぷぅと膨らませているが、滲み出る可愛らしさは隠せそうに無く、グラウスはすぐに優しい表情を彼女に向ける。
「なんだよミリアム、脅かさないでくれ」
 にこやかに笑う兄に、どこか気恥ずかしそうなミリアムはふんとそっぽを向きながら頬を赤らめる。
 彼女も華やかな存在ではあるが、幼さが残り社交の場でも相手にされることがない。けれど、兄、グラウスは笑顔を向けるだけで貴婦人たちを魅了するのだ。
 彼女にとってそれが最近不満の種なのだが、当のグラウスは奔放さを自重する様子もない。
「なにがなんだですか。グラウスお兄様、学術も剣術と同じくらいに重要なことですわ」
 狩猟、採取から農耕に生産が移るにつれて重要になってきたのが天候と治水。それらの知識、経験則を学んだ者は一般に「天ノ奏」と呼ばれ、大陸中、出身国を問わずいたるところで重宝されるのだ。
 けれど、当然のことながらグラウスはそれらも苦手。眠くなる一方の授業を抜け出しては城下に訪れる楽士に唱や踊りを教えてもらっていた。
「学術か〜……、そうだミリアム、魔法を教えてくれよ。そうすれば……」
「グラウスお兄様、付け焼刃な魔法でカリウスお兄様に勝てるとお思いですか? お兄様は学術、剣術、共に嗜んでおります。ですからあのようにお強いのです。グラウスお兄様も少しはカリウスお兄様を見習って……」
「はいはい、わかったよミリアム」
「でしたら、ミリアムと一緒にお勉強を……」
 ぱっと明るくなるミリアムは手をパチンと合わせて頬をほころばせるが、
「ひとまず社会勉強をしてくるから、先生にはそういう風に伝えておいて!」
 それだけ言うとグラウスは彼女の脇をすり抜け、突き当たりに消える。
「ちょっとお兄様! お待ちになって……って……」
 追いかけようとするミリアムだが、その腕は侍女のエイミーにつかまれる。
「さあさ、ミリアム様、家庭教師の先生がやってきましたよ」
「離してエイミー、ミリアムはお兄様を……」
「グラウス様を捕まえるなど無理です。諦めてこちらへ……」
「はーい、エイミー……」
 しょんぼりとするミリアムに少々気が引けるエイミー。姫と侍女、主君と従者という関係ではあるが、本当の妹のように可愛がっている彼女の悲しむ様子を見ると胸がキュウと痛くなる。
「ねえエイミー、どうしてお兄様はミリアムと一緒にいてくれないの?」
「それは、おそらくグラウス様の前に魅力的なものが多すぎるからでしょう。グラウス様にはお城の中のような退屈な場所が物足りないのでしょう」
「ミリアムは……魅力無い……?」
「いえ、けしてそういうつもりではありません。というか、グラウス様はまだ興味の対象が低いのです。ミリアム様のような素敵な淑女の魅力にも気付く日が来るでしょう」
「何時?」
「何時といわれましても……、大人になればとしか……」
「大人って成人の儀を終えたら? ねえエイミー、お願い、教えて……」
「成人の儀……、……そうですわミリアム様、お耳を……」
「何、エイミー? うんうん……えぇ! そんなぁ……」
 侍女の耳打ちに顔を真っ赤にさせてふためくミリアム。しかし、興味津々の様子な彼女はうんうんと相槌を打ち、恥ずかしがりながらもエイミーにすがるような視線を送る。
「それでも、もしお兄様がミリアムに興味を持ってくれなかったら?」
「ミリアム様、貴方は同性の私から見てもおかしな気持ちになる魅力が有りますわ」
「でも、お兄様はお外へ……」
「そうですね、グラウス様はまだまだ子供ですし……、ええ、そうならばこうしましょう。このお薬は気持ちを一時的に大人にさせる効果がありまして……」
 エイミーはポケットから青い小瓶を取り出し、ミリアムに渡す。彼女はその瓶を手に取り、不思議そうに見つめる。
「でも、エイミー。ミリアムは殿方とのことをよく知りませんし……」
「しょうがないミリアム様……。仕方ありません、今日は私と特別の授業に参りましょう」
「お勉強は?」
「一日くらい平気です」
 しれっと言い放つエイミーは彼女の手を引くと、書庫へと向った。


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