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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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3. Softly, as in a Morning Sunrise-9

「そうなの。しかも、あれがどうやら自然だから困っちゃう」
「ま、チヤホヤされるのに慣れてそうだよねー。一昨日かな、複合機の前であの子が困った顔をしてたら、各島から男性社員がウヨウヨと寄ってきて教えてたよ、使い方。んで、最後に、『すごくわかりましたぁ、みなさん、ありがとうございますぅっ』だって。私もあんたも一生出せないようなそれはそれは愛らしい声でね」
「……美穂。ひょっとして木枝さんのことキライ?」
 いくら彩奈でもそこまでブリッ子の声は出さないだろう。美穂のデフォルメが多分に入っている。悦子が問うと、美穂はチョッカラをエビの頭殻の中に角度を付けて入れて、
「いや、好きとか嫌いとかっていうほどあの子と絡んでないよ。……ただ、これまで女には思いっきり嫌われてきたんだろうなぁ、ってのはヒシヒシと感じる」
 殻を齧りつつ、ミソを取り出し唇に吸い込んで言った。「本人は女に嫌われる自分でもいいや、って思ってる。そうじゃん?」
「たしかにそうだね。――私に対してもかな?」
「そうなんじゃん?」
 全然喋ったことないのによく見てるなぁ、と悦子は感心した。確かに彩奈は社内で男と喋っているところしか見たことがない。そもそも男が多い職場だから、というわけではない。同じフロアに配属になった女子の同期、それは全社で採用された女子社員の殆どが悦子のフロアに来ているわけだが、その子たちと話しているのを見たことがなく、男子の同期とばかり話している。彩奈も相手の女の子たちもお互いが避けているかのように見える。得意先の担当は女性が多いので、女性とうまくやれないのは困ったことになるから心配したが、そういう相手に対してはビジネスライクな笑顔で人当たり良く付き合えるようだった。細かいことは気にせず男女別け隔てなく話してきた悦子にとっては、相手とシチュエーションによって態度を変えるのも却って面倒ではないのかと思える。
「ま〜、そういう器用さは『最近の若い子』って感じだよね。いかにも」
 美穂は皿にコロンと綺麗に身を剥ぎとったエビの剥殻を入れるとおしぼりで指を拭いながら肩を竦めて作り笑いを浮かべてみせた。若い子、などという語用がいかにも自分が歳を取ったようで自嘲されるらしい。「あれだけ見てくれがいいと、本人が望まなくても馬鹿なオトコが勝手に寄ってきて色々やってくれてきたんだろ? あの子が一方的に悪いってわけでもなく、周りの方でカンチガイとかされてるって思うと結構気の毒だよね」
「そんな言い方してたら、オバサンのヒガミっぽく聞こえるよ?」
 悦子の忠告に美穂はマッコリを飲みながら笑った。
「うるさいよ。てか、あんたのほうが若さと可愛さに僻みまくってんだろーがよ」
「別に僻んじゃいないよ。そんなの感じながら新人指導とかしてたら問題だろ」
「じゃ、なんでカレシを取られそうだなんて泣いちゃってんの?」
「う……」
 得意先の一つであるアミューズメント企業から新規の案件が出てきそうで、悦子は詳しい話を聞きに商談に赴いた。昨年度から営業に伺って担当と雑談をしている折から、もうすぐ県外に新店展開をかけるかもしれないと聞かされてきた話が漸く具体的になって出てきた。外回りに慣れさせる意味で客先に行く時は彩奈をなるべく連れて行くようにしていたが、ともすれば今年度一番の案件にもなりそうだったから、商談に注力するために連れて行かなかった。実際いつもやりとりしている担当だけでなく上司たる人物まで出てきて、案件は悦子が想像していたよりもかなりの規模になるようだった。しかも出店する地域が得意先が懇意にしている建築会社にとって弱い地域であれば、電飾だけでなく親会社を通して建築施工そのものを取りにいけるかもしれない。すぐに部長に話を入れておこう。次回は部長も連れて行ったほうがいいし、感触が良ければそのまま接待をかけるべきだ。帰りの電車の中で悦子は口頭報告する内容を頭の中で組み立てていた。
 フロアのドアをくぐり、まっすぐ雛壇へと向かう。部長は仕事が一区切りしたのか、お茶を飲みながらパソコンの画面を再チェックしていたようだったが、通路を歩いてくる悦子の姿を見ると、おう、と手を上げた。今日外出する用件は事前に伝えてあったから、結果がどうだったかすぐに知りたいようだ。
(……ん?)
 自分の席に見慣れた背中があった。平松が悦子の席に座り、隣の彩奈の席のPCを覗きこむようにしている。彩奈は真剣な表情で話を聞き、頷いて笑顔を向けたところで、平松の背後から近づいてきた悦子に気づいた。
「お疲れ様です」
 彩奈の挨拶に気づいた平松も振り返り、ご苦労様です、と挨拶をする。悦子はバッグを自席に置いて、はいどうも、と二人を見下ろした。
「……どうしたの?」
 ちょっと距離近すぎないか? そう思いながら放った言葉は、自分の耳に届いても不機嫌さを含んでいた。
「この伝票なんですけど……」


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