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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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3. Softly, as in a Morning Sunrise-22

 廊下に戻るなり玄関入ってすぐに人影があって驚いて声を上げた。平松が立ってこちらを見ていた。ちらりと下駄箱の上に置いた時計を確認すると、平松を呼び戻してから一時間近く経っている。どこに居たのかはわからないが、電車はもう無くっているだろう。タクシーを飛ばして戻ってきてくれたのか。
「……あ、えと……、お、おかえり」
 平松にじっと見られて、悦子はエナメルの衣装に身を包んでいるのが恥ずかしくなって、腕と手で胸元と下腹部を隠して小さくなって言った。
「ただいま」
 暫く見つめ続けられる。悦子は視線を浴びながら脚を擦り合わせ身を微かに左右に捩りつつ、何かを言わなければならないと思ったが、何から言ったらいいか分からず俯き加減に黙りこくっていた。
「……すごく似合うよ」
「うん……」
 平松が戻ってきてくれて嬉しい。泣き縋って呼び戻すなんて本当にダメ女だ。もうダメダメならば、忌み嫌っている女王様プレイも受け入れてでもずっと側にいてもらおう。居なくなられるよりよほどマシだ。
「こっちおいで」
 女王様は呼ばれて赴くような人ではない。初めてだからよく知らないのかな、そう思いながら悦子は廊下に網タイツの脚を摺りながら歩んでいった。平松に近づくに連れて両手を広げられる。胸にこみ上げてくるのを我慢して、恐る恐るその体の中に身を入れていくと、腕が腰を巡って体に押し付けられる。
「んっ……」
 我慢できなくなって、女王様は両腕を首に回して強くしがみついた。まだ風呂に入っていない平松の体からは、ずっと嗅がされてきた男の臭いがして頭がじわりと茫漠となってくる。翔ちゃん、と甘えた小さな声を我慢できなかった。
「木枝さん、彼氏いるよ」
 耳元で平松が静かに言った。
「……なんで知ってるの?」
「この前客先に行った時、電車の中でそんな話になった。大学の時から付き合ってるんだって。新歓のときは周りの人の食いつきがすごくて思わず居ないって言っちゃったんだけどどうしましょう?、だって」
「そう、なんだ……」
「俺も、彼女居る、って言ったよ?」
 悦子は額付けていた顔を離して驚きの視線を上げた。
「言ったの?」
「もちろん、悦子だとは言ってない。俺みたいな奴に彼女が居るって、木枝さん、信じたかどうかは知らないけど、言った。……ちょっとだけノロけといた」
「……なんて?」
「普段は皆に頼られてて、意志が強くて、……でも弱いところを俺の前では見せたりするから可愛くてしょうがない。九重彩奈を何百倍可愛いくしたタイプだって」
 平松は悦子の頭に手を置いて、ゆっくり髪を梳いて下ろしていった。指が首筋から素肌の背中へ降りてくると、その感触に身が小刻みに震える。
「ちょっとだけ、じゃないよ、それ」
「うん、引かれた」平松は笑って、「……でも、悦子が好きだっていうの、1%も伝えれてない」
「……どうしてそれ、言ってくれなかったの?」
「聞いてくれなかった」
 平松は毛先まで背中を撫でると肩へ巡らせ、悦子の身を真横に振り向けさせると玄関を入ってすぐの廊下の壁に押し付けた。背中は広く肌を晒しているから壁が冷たく、それが更に力強く身を抑えつけられている状況を如実に知らしめた。正面から身を押し付けながら至近に顔を近づけられる。スッピンの頬をまた涙が落ちていった。だが一人で涕泣していたときと、雫の熱さが全く違った。
「悦子。愛してるよ。離したくない。今日みたいなことは二度と言わないで。わかった?」
 壁ドンだ。何か世間一般に言われているのとちょっと違う気がするが、抑えつけられている力と、視線で動くことができない。動くことができない状況で、威圧的に迫られている。ドンと音は鳴っていないが壁ドンだ。
「翔ちゃん……、ごめん。……ごめんなさい」
「嫉妬してたって本当?」
「気づいてなかったの?」
「機嫌悪いな、とは思った」
「……めんどくさい?」
「そうだね。めんどくさくて可愛い」
 平松が唇をはんできたから、悦子はもっと深く口を押し付けたかったが、肩を強く抑えられているので腕を上げることができず、平松の袖を握りしめて何度も啄まれ、その度に耳に垂れている髪を揺らした。
「俺がいないと生きていけない?」
 そう言われて悦子は至近に見つめられる中、目線を右に逸らして、
「そ、そこまでは言ってない」
 と呟いた。
「桜沢さんが言ってたけど」
「……」
 肩を抑えていた手を外されて、いまだ、と悦子は両腕を上げて平松の首に回した。深く唇を合わせると舌が入ってくる。口の中は待ち焦がれた唾液で溢れていて、悦子は呻きを漏らしながら平松に口内を与えていた。力が抜けそうになる。
 すると不意に平松が悦子の背中に片手を回した。少し身を屈めると、もう一方の手が膝の裏に添えられる。
「しっかりつかまって」
 と聞こえてくるや否や体が宙に浮いた。


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