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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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D.-5

「…あー、このハンバーグと…ご飯大盛りで。あと、こっちのグラタン」
「ハンバーググラタンでよろしいでしょうか?」
「いーの?」
瀬戸がこちらを見ずに口だけ動かす。
「…あ、ハイ。…それで」
「かしこまりました」
店員が去った後、瀬戸が「邪道」と呟く。
陽向はそれを無視して店員が持ってきた水の入ったグラスを口につけた。
「…好きなの?グラタン」
さっき言ったじゃん、と思いながら「好きですけど…」と返す。
「ハンバーグは?」
「…普通です」
陽向が答えると瀬戸は、ははっと笑った。
笑った顔が無邪気で、いつもの瀬戸じゃないみたいだ。
「なんか…面白ぇ、風間って」
「どこがですか」
「嫌いなヤツと飯食うとことか」
「瀬戸さんが連れてきたんじゃないですか!」
陽向は「強制的に」と付け加えた。
「最近、どーなの」
「どうって何がですか」
「仕事に決まってんだろ。お前と話すことそんぐらいしかねーだろ」
そんな世界一つまらない話のためだけに呼ばれたのなら、お金を払ってここから立ち去りたい。
「今日見れば分かるじゃないですか…ミスばっかです」
俯く陽向を横目で見ながら瀬戸は左手で鼻と口を覆い、鼻から息を吐き出した。
「1年目の中じゃ仕事出来ないし、いつもいつも怒られてばっかりで…。進藤さんだって、こんなデキの悪いプリセプティーなんてウンザリですよね」
陽向は『進藤』という言葉を口にしたことを後悔した。
チラッと瀬戸を見る。
「なに?」
「…いえ」
「進藤がそんなこと思うと思う?」
今度は瀬戸がグラスを口にする。
カラン、と氷のぶつかる音が耳に響いた。
「進藤に失礼なんじゃねーの?そーゆー考え」
「……」
「あいつだって悩んでんだよ。自分の言い方とか教え方が悪いんじゃないかって。『出来が悪い』『ミスばっかり』…そーゆーのって、進藤のこと否定してるよーなモンなんじゃねーの?お前、進藤とちゃんと話したことあんの?」
陽向は何も言えなかった。
「確かに、何かやらかすのはお前かもしんねーけど、お前が嫌だって思ってんのと同じくらいあいつだって同じ気持ちなんだよ。…上からもグチグチ言われるし」
「え…」
「『指導が足りない』とか『何て説明した?』とかそんなことばっか言われて。全部全部プリセプターのせいにされんだよ。…ホント、腐ってるよなウチの病棟って。何時代だよって感じ」
瀬戸はまたヘラヘラ笑った。
こんなにお喋りな瀬戸は初めてだ。
いつも一言二言しか言わないのに。
さりげなく進藤さんのことかばってるし…。

でもそんなことより…自分の無力さが恥ずかしくて仕方ない。
自分ばっかり辛いと思っていた。
ミスをして辛いのはこっちなのに…って。
進藤が色んな事言われて、数え切れないプレッシャーを抱えていたなんて微塵も思わなかった。
あの日、休憩室で自分に優しくしてくれたのは、罪悪感からだったのかな…。
あたし…進藤さんに何もしてあげられてないのに。
進藤さんは何も悪くないのに…。

気付いたら泣いていた。
気付いたら瀬戸に「邪道」と言われたハンバーググラタンが目の前に置かれていた。
「ほら」
白米を咀嚼しながら瀬戸が陽向に紙ナプキンを差し出した。
遠慮なく受け取る。
涙を拭いていると「お前の怒った顔か泣いた顔しか見たことねーんだけど俺」と真面目な顔で言われた。
「…すみません」
「ま、いーけど」
「……」
「食わねーの?」
「食べます…」
陽向がスプーンを手に取った矢先、瀬戸がグラタンとハンバーグを一口掬って口の中に放り込んだ。
「あぁっ!」
「弱肉強食の時代だからね」
「なにそれっ!」
陽向は瀬戸の顔を睨み見た。
その顔を見てプッと吹き出す。
「あ?」
「ソースついてますよ、ココ」
陽向は自分の左頬を指差して笑った。
「お前、処刑な」
瀬戸はそう言うと紙ナプキンで頬を拭った。
それがまた可笑しくてヒヒッと笑う。
「そーやって笑ってりゃいーのに」
「へ?」
「患者になりてーわ」
再び白米を咀嚼し始めた瀬戸から目を逸らす。

人を嘲笑って馬鹿にしているかと思えば優しくして…。
瀬戸が何を考えているのか本当に分からない。
遊ばれているのか、本気なのかも…。
…やっぱり、嫌な人ではないのかもしれない。
でもそう思っていると、その思いを裏切られて傷つく。
この人をどこまで信じれば良いのだろう。
進藤が言っていた言葉の真相は、結局よく分からないままだ。


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