投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 12 プラネタリウム 14 プラネタリウムの最後へ

B-5

15時。
やっと落ち着いた頃に佐伯が先に休憩に入る。
湊はランチでなくなってしまった食材を調達せねばと、ディナーに向けて準備を始めた。
休憩に入りたい。
心からそう思う。
疲れているし、何よりもものすごく具合が悪いことに気付いてしまった。
忙しい時は何も思わなかったが、落ち着いてしまうと一気に倦怠感に襲われる…。
「五十嵐、休憩は?」
気をきかせて松谷がそう問う。
「…あ?佐伯さん戻ってきたら入るよ」
「え?佐伯さん今入ったばっかじゃん。戻ってくんの17:30だし、もうディナー始まるよ?未央も一応キッチン出来んだから、五十嵐も入ってきなよ」
松谷は料理を置く場所であるカウンターに身を乗り出して言った。
最後のフレーズになんとなく嫌気がさし、「やることあるし、いい」と湊は素っ気なく答えた。
その場にいた未央には一瞥もくれず、ディナー用の食材を調達し続ける。
もちろん、未央も何も言わない。
しばらく湊が黙って仕事をしていると、背後から「五十嵐さん」と声が聞こえた。
「なに」
見なくても分かる。
「昨日は、すみませんでした…」
湊は何も言わず、トマトを切り続けた。
「あたし…そんなつもりじゃ……」


俺……何してんだ?
未央に謝られたその後の記憶がない。
遠くで騒がしい音がする。
それとともに、激しい頭痛に襲われる。
湊は自分の頭を殴った。
…あれ?
自分は休憩室のソファーで大々的に寝ているではないか。
やばいと思い、床に落ちた帽子を被る。
と、その時、裏口の扉が開いた。
「五十嵐さん!大丈夫ですか?」
「え…。あー、すげー頭痛い…。けど、戻んなきゃ。つか何これ?俺やる事あんのに」
湊は虚ろな目をしてキッチンに向かおうとした。
が、立ち上がったはいいものの、恐ろしい脱力感に襲われる。
湊はフラフラとキッチンへ向かうドアにもたれかかった。
「五十嵐さんっ!」
すかさず、未央が支えてくれる。
頭が死ぬほどガンガンする。
「39度もあるのに、行く気ですか?!」
「あ?なんだよ。意味わかんねー…」
湊は充血した目で未央を見据えた。
ものすごい動悸がするし、視点が合わない。
「熱あるんです!休んでて下さいっ!」
「はぁ?ねーよ、んなもん!俺の身体は病気しねーの!」
湊は強引に未央を突き飛ばし、キッチンへと向かって行った。
39度とか嘘だしそんなん。と、自分に言い聞かせ、キッチンへ行き、佐伯に謝る。
驚いた目をされる。
「おい五十嵐。てめー具合悪ぃのに何も出来ねーだろーが!とっとと帰って休め!」と罵倒される。
「やります!」
「はぁ?風邪で能力落ちてる奴なんかにやらせられっか!ナメてんのかテメーは!!!」
こんなピークの時間帯だというのに、佐伯はいつもの調子で自分を罵倒する。
その罵倒され具合に、ふつふつと怒りにも似たような思いが込み上げる。
「やらせて下さい!!!!!」
真っ赤な目をした湊を見て「具合悪くなったらすぐ言え」とだけ言って佐伯は去って行った。

閉店後、パソコンの前で今日の売り上げを打ち込む佐伯の後ろ姿をぼーっと見つめる。
「佐伯さん…それ、俺…やります……」
「五十嵐」
「はい…」
肩で息をする湊に向き直り、佐伯は言った。
「お前、明日休みにしてやるから…。休め。頑張り過ぎだ」
「いや…でも…佐伯さんだって……」
「俺の事は気にするな。もう、慣れてんだよ」
自分だってこの店の社員なのに…。
「俺の身体は病気しねーんだよ」
その言葉に湊は静かに笑った。

4連休ももらってしまった。
陽向からメールが来ていたのは深夜1時だった。
『ごめん、今日仕事終わらなくて行けない。仕事大変?明日から2連休だから、そっち行くね!』
今日来れなかった事は好都合だ。
しかし明日来るとは……こんな姿見せたくない…。
湊は『連勤だし忙しいから今度休み合う日にしよ!』とメールを送った。
申し訳ないが、そうせざるを得なかった。
陽向の身体が弱い事は重々承知だ。
来たところで、風邪をうつしてしまうのは目に見えている。
『そっか…じゃあ仕方ないね。仕事がんばって!!!次の休みいつ?どっか行こーよ!』
『美味いメシでも食いたいな』と返し、湊は死んだように眠りに落ちた。

インターホンがおぞましく鳴り続ける夢を見ていた。
出ようと思うが、なかなか出れない。
なんともじれったい夢だ…と思いながら神経が目を覚ます。
けたたましく鳴り響くインターホン。
…これは現実か?
意識が戻ったであろう現実の空間に耳をすませる。
しんとしている。
やはり、夢だったのか。
湊は汗だくになった重い身体を起こして、頭を掻いた。
―――ピンポーン
インターホンが鳴る。
どうやら夢ではなかったようだ。
鉛のような重さの身体をベッドから降ろし、玄関へと向かう。
宅急便か何かか…まさか、陽向が来たんじゃないだろうか……そんな思いが過る。
「…ぁい」
扉を開けると、顔を覗かせたのはなんと田辺未央だった。
「五十嵐さん、大丈夫ですかっ?!」
「は?」
なんでここに住んでいることを知っているんだ?
そう問いたいが、だるくて言葉も出ない。


プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 12 プラネタリウム 14 プラネタリウムの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前