投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 1 プラネタリウム 3 プラネタリウムの最後へ

A-2

受け持ち患者が1人だというのに、無駄足が多く無駄にバタついている。
進藤の方が検査出しや重症患者の管理等で忙しいはずなのに、陽向は点滴の管理から何から何までよく分からなくて、患者さんとステーションを行ったり来たりしていた。
何度も進藤に「次は何やるの?」「やる時呼んで」と急かされる。
その度に焦って紙を見る、の繰り返し。
12時には休憩に入らなければならないが、その前にリーダーに午前中の報告をしなければならない。
報告することを進藤に伝えようと声を掛ける。
「えと…原さんは、今日は3周歩いて…」
「それ、一番重要?」
「へっ?!あ…心不全で入院してて…」
「レントゲンは?」
やば…すっかり忘れていた。
「まだ見てないです…」
「もうっ!よくそんなんで送ろうと思ったね!」
進藤はカルテを開き、レントゲンの画面を陽向に見せた。
「どう?」
どう?と聞かれても…。
レントゲンなんて全く分からない。
「おとといのがこれでしょ?」
進藤がマウスを操作し、前回のと今回のを並べて見せる。
「あまり…変わらないと思います…」
「まぁーこれは分かりづらいかもしれないけど…。この辺の胸水は明らかに減ってるし…」
進藤は入院したてのレントゲンを見せたりして、難しい言葉でなんやかんやと話した。
陽向はそれを必死にメモする。
「本当に分かった?」
「はい…」
時間もないので、ごちゃごちゃのままリーダーに報告しに行く。
おずおずと伝えていくと、これはどーなの?あれはどーなの?と知らない事まで色々と聞かれる。
もう、わけがわからない。
「もうちょっと心不全について勉強してきて」と、冷たく言い放たれ、終了。
なんだか魂を吸い取られた気分だ。
休憩中も先輩と一緒で終始落ち着かない。
会話にも恐れ多くて入れない。
午後が始まり、なんだかよくわからないまま終わり、記録後は進藤と今日の振り返りだ。
「受け持ち初日お疲れ」
「…お疲れ様です」
「あははっ!何それ。疲れた?ま、初日なんてこんなもんだよ」
仕事が終わった後の進藤は、仕事中とは少し違った。
真面目に話すこともあるけどたまに冗談を言ったり…悪い人ではなさそうだ。
本当は怖い人じゃないんだろう。
陽向も少しずつ笑顔になっていた。
「風間さん、やっと笑ったねー」
進藤がやんわりと言う。
「初めての受け持ちで緊張したでしょ。仕事中、そんな風な柔らかい顔じゃなかったよ」
そうだっけ…。
いっぱいいっぱいで、そんな事すら気付かなかった。
真剣にならなきゃ、あれやんなきゃこれやんなきゃって、そればっかり考えてた。
「患者さんの前では笑顔でね」
その日、進藤に最後に言われた言葉。
実習とは全く違う。
必死すぎて、笑顔になることさえ忘れていた。
患者さんの前では、どんな時も笑顔でいなくちゃいけない。
自分自身に強制的にそう思わせることは違うと思う。
けど、今はそうしなきゃやっていけないのかも…。
世の中、甘く見てたかな。

帰るなり服を脱ぎ捨てて部屋着に着替え、ベッドに寝転がる。
今日は疲れたな…。
目を閉じたらそのまま寝てしまいそうだ。
陽向は自分を奮い立たせてテーブルに向かった。
薬調べなきゃ…あと、今日夜勤の先輩が言ってたなんちゃらってやつ……あれ?なんだっけ?
気付いたらボールペンを握り締めたままテーブルに突っ伏し、ヨダレを垂らしていた。
携帯の着信音が鳴り響き、ドキッとして画面を見る。
そこには『五十嵐 湊』と表示されていた。
そういえば、4月に入ってからまだ1回しか会っていない。
忙殺されており、それすら忘れていた。
「…ぁい」
『おう。…寝てた?』
電話越しに湊がクスクス笑っているのが聞こえる。
「ん…ちょっとウトウト」
『元気でやってんの?』
「毎日疲れて死にそう」
『ははっ。新人看護師は大変だっていうからなー』
「湊は?元気?」
湊は4月からイタリアンレストランの社員として働いている。
陽向は就職してから引っ越したため、今までより少し家が離れてしまった。
おまけに不規則な勤務と毎日の疲労で、こうして湊と話すのもかなり久しぶりだ。
『んー。俺はぼちぼち』
「忙しい?」
『覚えることあり過ぎて悶えてるわ』
「あははははっ!」
仕事の話で盛り上がる。
ふと、沈黙が訪れる。
「湊…」
『ん?』
「会いたい…。湊に、会いたい」
疲れからか、涙腺が緩くなっている。
ポロポロと涙が零れる。
『俺も。お前に会いたいよ。次、いつ休み?』
「…土曜日」
『んー…土曜は夕方からだからちょいゆっくりできる』
「ほんと?じゃあ湊の家行っていい?」
『おう』
「金曜日は?何時までなの?」
『わかんねー。いつも1時とか2時まで店いるけど』
「そっか…」
『土曜、どっか行くか?』
「いーよ。疲れてるでしょ?家でのんびりしよ」
『それもいーな』
湊と約束し、少し話した後通話を切る。
土曜日か…。
陽向はカレンダーを見て溜息をついた。
今週はまだ始まったばかりだ。
昨日と同じような毎日が金曜日まで続くと思うと吐き気がする。
でも、それが終われば湊と会えるんだ。
それだけを楽しみに今週を乗り切ろう。


プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 1 プラネタリウム 3 プラネタリウムの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前