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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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略取2-2

 その日は晴天だった。気分は青空のように晴れ渡る、とまではいかないが、そう悪い気分ではない。それなりには緊張しているが、どう話を持っていこうかと考えあぐねているうちに混乱し、もう当たって砕けろといった気分であった。楽観的な気持ちになっているのは電話に出た女性のせいだろう。たったあれだけの会話だが、彼女が知的で優しい女性であることがひしひしと伝わった。
 周囲の塀と高い木々により、洋館の上三分の一程度しか見えない。
 ボディガードだろうか、鉄の門を開けたのは見上げるような体躯の黒人だった。学生時代、長期間の海外留学を経験しているので見慣れていたが、ここまで上背のある黒人は滅多にいない。しっかりした日本語を話す黒人のうしろに続き、広大な庭を歩いた。客などまったく無関心の腰を折った老婆が黙々と仕事をしていた。
 前を歩く黒人がたびたび振り返り白い歯を見せた。その都度、下からなめるような視線をあてる。初めから沙也加の体に遠慮のない視線を向けていた。何となく嫌な気分だった。
 建物の中は天井がとても高い。博物館のような雰囲気がある。突き当たりの部屋を指さして黒人は去った。後ろ姿に視線を当てると、彼は振り返って口の端で笑った。その狂気がかった目にぞっとした。
 気を取り直し、長い通路を歩いて指定のドアの前に立った。姿勢を正してドアをノックすると「どうぞ」と女性の声がした。電話の声の主だ。全身を覆っていた緊張の殻が剥がれた。
 ドアを開くと中年の女性が出迎えた。清楚な雰囲気の女性だ。沙也加はこの女性を見て確信した。声を聞いたときからその思いはずっとあった。一度だけだったが、ずいぶん前に電話の声を聞いていたのだ。
 佐伯奈津子は沙也加のことは知っていた。田倉から聞いていると、悲しげにうつむいた。
 岩井は急用ができてしまい、たった今出かけてしまったと申し訳なさそうにいう。残念だがしかたがない。
 佐伯と離婚したので住み込みで家政婦のような仕事をしていると奈津子の方から話した。離婚届は夫の方でもう処理しているだろうと寂しげにはにかむ。
 不倫をするような女性とは思えない。が、田倉がのめり込むのもわかるような気がする。男性から見ると日本女性特有の性的魅力を持ち合わせた人なのだろう。もちろん女性から見てもとても魅力的だ。
 離婚については沙也加はあまり驚かなかった。かわりに疑惑が深まった。奈津子がここで生活していること自体があまりに不自然だからだ。独身の女が何をしようが自由、よしんばどこぞの男の愛人になっていたとしても。だがここは岩井の家だ。
 奈津子が保全地区の問題に関わっているとは思えないのでその件は話さない。すでに知っている可能性もあるが、田倉の異動の件もこちらから伝えるのはやめた。奈津子はもう田倉とは会うことはない。
 娘の家出のことは佐伯本人から聞いたと話すと、何ともう家に戻っているという。それを聞いてほっとした。友人の家にでもいたのだろうか。それとも彼氏。これ以上深くは聞けない。
 帰りの見送りは奈津子だった。身構えたが、あの黒人は出てこなかった。改めて連絡する、と奈津子は約束した。
 佐伯に今から家に行きたいと連絡した。

 奈津子がいないわりには部屋の中は片付いている。聞くと娘が一生懸命やっているという。その娘とも会ってみたかったが、今日は出かけていない。テニスのクラブ活動に所属しているので何かと忙しいらしい。奈津子に会ってきたと告げると、佐伯は憔悴しきった表情でうなずく。岩井に会った理由は、保全地区許可の礼を言いに行った程度にしておいた。
 恵が世話になったのは岩井だと聞き、沙也加はショックを感じた。
 奈津子は恵の居場所がわかったとメモを残して出ていった。恵は戻ってきたが奈津子は戻ってこなかった。かわりに離婚届が送られてきた。同封された手紙には過ちをわびる言葉や、これ以上甘えることはできないなどと綴られていた。その後、恵の父親が保全地区の問題に絡む会社の社員であることを知り、岩井から直接電話がかかってきた。家政婦の仕事は奈津子に懇願されたと電話口で岩井が言った。
 佐伯の言動から奈津子に未練があることが、ありありとうかがえる。その証拠に離婚届がまだ手元にある。
 玄関先で、帰ってきた恵と鉢合わせした。まっすぐ沙也加を見て、学生らしくぎごちなくお辞儀をして家の中に入った。恵のあまりの美しさに沙也加は圧倒された。女性らしい後ろ姿を見て凍りついた。


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