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夜羽球の会
【調教 官能小説】

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七つの刻印-3

◆◆◆

 鼓動の音が自分で聞こえてしまうくらいに、心臓が大きく拍動している。全身の血管が拡張して、血液が轟々と勢いよく流れていく。神経の線維の一本一本がはち切れそうなほどに膨張して、青天井で感覚の伝達物質を分泌していく。脳は麻痺しているのか活発化しているのか分からない。思考はブツリブツリと短い断片に途切れてしまうが、意識自体ははっきりと澄み渡っていた。神経が研ぎ澄まされて、人間の能力を超えた知覚が垣間見えているような気がした。
 さっきまで精神まで蝕んでいた痒みは、あたかも幻想だったかのように消え去った。頭痛も気が付くと収まっていた。注射による投与と錠剤、それから粉末状の白い薬を鼻から吸いこんで、合計三つの薬を与えられた。身体に入れた途端に効果が表れたので、よほど良い薬なのだろうと思う。
 どんどんと苦痛が取り除かれていくのを感じながら、自分はまた眠りに落ちたようだ。いつ目が覚めたのかは分からない。知らぬ間に意識を取り戻していた。しかし、なぜか自分は眠りに落ちたという思い込みがあるだけで、眠った瞬間のことも覚えてはいないし、もしかすると本当は眠ってなどはいないのかもしれない。頭の中で考えていることがフワフワと舞って、しっかりとつかむことができない。まぁ、とりあえずあの苦痛が消え去ったことだけははっきりと分かったので、それでもう何もかもがどうでもいい。
 でも、これでもう悪魔祓いは最悪の状況になったらしい。自分がふがいないばかりに、悪魔の浄化に身体が耐え切れなかった。会長によると、こうなってはもう強硬手段に出るしかないらしく、薬を使って意識の表層に呼び出した悪魔を直接退治するとのことだった。

 悪魔を引きずり出す薬……?
 それは、さっき与えられた薬の中に含まれているのだろうか。もし、あの中にその薬があったとすれば、もう悪魔は意識の表層に現れているのだろうか。そうなると、今こうして意識をもっている自分は何者なのだろうか。もしかすると、自覚がないだけで自分は呼び出された悪魔なのだろうか。それとも、悪魔の意識が出てきたところで、この意識は止まることも消えることもしないのだろうか。
 考えても分からない。これだけのことを考えるのに、もう何時間もかかってしまったようだ。薬を与えられたのは、確か朝だったように思う。今は何時だろうか。時間の感覚がなくなっている。いつでもこの部屋は薄暗く、朝でも夜でも違いは見られない。
 ああ、でもまだ自分の陰部にはバイブが挿し込まれてはいない。寝るときはいつも、黒服がバイブを挿してくれたのだ。だから、仮に今が夜だとしても、まだみんなが寝静まるような時間ではないのかもしれない。
 さっきから何を見ているのかが分からない。どこかを見ているようにも思えるし、どこも見ていないようにも思える。視覚の刺激が足りない。意識をはっきりと引きつけて、目を反らせなくなるようなインパクトが今は視界にはないのだ。
 音もそうだ。匂いも、味も触感も。今は感じているようで、何も感じてなどいなかった。

 だから、突如として意識の中にはっきりとした存在感をもって会長が現れたときはびっくりした。会長だけではない。突如として、ぐわんぐわんとして秩序の崩壊した世界の中に、信者の男たちが姿を現した。なぜか、自分は彼らの存在に全意識を集中してしまっていた。それほどまでに自分を引きつける何かを、彼らはもっているのだろうか。

「よくも我らの同胞の魂に憑りついてくれたな。今こそ貴様に神の鉄槌を喰らわせてやる」
 ようやく明確な形をもって聞き取れたのも、会長のドスのきいた声だった。
「下ろせ!」
 その命令が放たれた瞬間、ブラックホールに引き込まれるようにして意識が世界に飲み込まれた。
「いっ、いあああアア――――ッ!」
 初めに感じたのは痛みだった。瞬間的に、痛いのは股だということも感じた。黒いもやがかかっていたような視界が、突然クリアな質感をもった世界に変貌した。自分がずっといた部屋とは別の部屋だ。薄暗くて、コンクリートの壁で覆われた無機質な部屋。前に一度来たことがあるような気がした。信者たちは自分を中心にして、円状にイスを並べて座っている。会長だけが立って指揮を執っていた。
 次に頭に入ってきたのは自分の状態だった。腕が背中側に回されている。脚は膝で曲げられた状態だ。両方とも縄で縛って固定されているようだ。体勢は、何かにまたがるようにして座っている。首輪に繋がれた鎖が上に伸びている。背筋はピンと伸びていた。
 最後に、何が起こっているのかが統合して理解された。自分は今、縛られた状態で硬い木製の何かにまたがっている。その何かは形が三角形になっていて、またがった自分の股がそれに食い込んでいるのだ。それが刺激となって、今自分は痛みを感じている。
 段階的に状況が判断される。時間にしては、叫び声をあげたほんの数秒だったが、意識の中でもある程度の長さがあったように感じた。
 一度世界を理解するプロセスを経れば、あとはもう時間も意識の長さもほとんど誤差がなくなった。世界を世界として認識することができた。そうして初めて、自分はもっと股の痛みに悶絶して叫ばなければならないことが分かった。



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