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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 3.-6

「ごめんね。……私も、……ちゃんと、するから」
「ちゃんと?」
「智恵……、とのこと」
 友梨乃の握る手に力が入ってきた。
「……無理せんでええです」言ったものの、陽太郎の甘く疼いていた胸を嫉妬が凶々しく濁してくる。「ユリさん、智恵さんのことが好きなんでしょ?」
「か、彼女が……。他の人としたら、陽太郎くんもちゃんと怒って」
 嬉しい言葉だが不安は払拭できなかった。美夕のように遠く離れているどころか、一緒に住んでいる。すぐ近くに恋敵がいるのだ。
「智恵さん、家でどうなんですか?」
「あんまり話してない。……陽太郎くん、智恵に何か言ったんでしょ?」
「ユリさんと付き合う、って言いました」
「……それだけ?」
「ほやからユリさんには手出すなって言いました」
「……きっと陽太郎くんが、そう言ってくれたおかげだね」友梨乃は涙がやっと止まったらしく、落ち着きを取り戻しつつある声で言った。「陽太郎くんと付き合い始めてから、智恵と何もないよ。……本当だよ」
「……よかったんですか?」
「うん……」
 友梨乃は握っていた陽太郎の手の甲をもう一方で握って、「……このまま寝ていい?」
 身を後ろによじっている陽太郎にとっては寝るのが無理な体勢だったが、闇の中に横たわる友梨乃を朝まで見守っていた。




 陽太郎はウィッグを被りブラシで梳かして馴染ませると、姿見で左右に身を捩りながら全身を確認した。さっき届いたばかりのニットワンピースだった。
(女ってよぅこんなん履けるなぁ……)
 ミニ丈の裾を太ももに感じる位置はシアータイツを履いていても不安になるほど膝をはるかに越えた脚の上部だった。下腹部に開放された外気を感じる。厚みのあるオフタートルはウイッグの巻髪と協力して喉仏を影に隠し、ウエストを絞っていないデザインは隠されることでむしろ内部に女性的な体のラインが潜んでいるのではないかと想像させるから、シアータイツで彩られた陽太郎の女性的な脚線と相まって、男っぽさを完全に打ち消していた。フルメイクで鏡の前に臨むと、まるで自分でないかのような離脱感を感じるほどだ。スカートへの再挑戦は成功と言えるだろう。この姿で何気なく店舗を訪れて、働いている友梨乃に今の姿を見てもらうという危険な空想すら起こってくる。
 何と言っても陽太郎を妖しい気持ちにかきたてるのは、胸に張り付くシリコンバストの感覚だった。ゆったりとしたニットのバストに艶かしく仄かな起伏を呈している。友梨乃なみに大きなバストはおこがましいと思い、通常程度の大きさの柔らかい物体を左右対称になるように気をつけながら素肌に貼り付けると、更に女に近づいた気分になった。そんな自分の姿を見ていると下腹部がモヤつく。スキニーとは違って、男茎を圧迫するものは何もなかった。鏡を見ているうち、息と鼓動が荒くなるのに比例して膨張してくる。
「うっ……、く……」
 鏡の中の女に陽太郎は欲情していた。女もこちらを見て欲情していた。我慢ができなかった。陽太郎は膝が折れそうになりながら前屈みになってニットワンピースをめくり上げるとシアードタイツと布面積の小さいボクサーブリーフを太ももまで下ろした。突き出た男茎の先がニットワンピースの裏地に触れて崩れ落ちそうになる。買ったばかりの服を汚すわけにはいかなくて、陽太郎は慌てて男茎を握るとスカートの裾から外に出した。握ったままベッドに座り脚を開く。バスト越しに見下ろした自分の体は、どう見ても女なのに、股間から生々しい男茎が最大まで膨張して突き出ていた。先端の穴に透明な雫玉がぷっくりと浮きだしてレンズを作っている。
 友梨乃と付き合い始めてから、何度も仕事終わりにファミレスでデートしたり、友梨乃が家にきて夕飯を作ってくれている。特に家に友梨乃がやってきて、陽太郎が女の姿に変わるとキスを許してくれた。キスをしているときだけは友梨乃に触れて抱きしめることができる。くびれたウエストの艶かしいラインを確かめることができる。――しかしそこまでだった。女として友梨乃にキスをしながらも、摩っている指先から起こる感慨は男性的な劣情だった。それ以上の欲求に従ってしまうと、オトコをむき出しにして友梨乃に襲いかかってしまう。陽太郎はいつも、女の衣装の中で膨らんでしまう下腹部が友梨乃に触れてそれを知られないように注意して抱きしめていた。
「ユリぃ……」
 呻きながら恋人の名前を呼ぶと、陽太郎はベッドの上に身を投げ出した。布団に顔を埋めながら、握りしめた男茎を動かしてしまう。布団からは一昨日ここで眠った友梨乃の香りがした。友梨乃のことを思い出し、その麗しい人が確かに自分の恋人であると省みるだけで頭が痺れるほどの幸福に包まれたが、それが強ければ強いほど下半身へ渦巻いてくる遣る瀬無さは凄まじかった。友梨乃との幸せな日々とは別に、陽太郎の体には性欲が溜まってくるという現実があって、それを吐き出さなければならない。他の女に手を出さないと約束している。手を出す気にもなれない。であるならば、自分でこれを処理するしかないのは当然だったが、部屋の中で一人であっても、女装する最中は沸々と湧いてくる邪淫な欲求を意識的に無視するようにして何とか収めていた。しかしパンツスタイルではない、ミニワンピースという陽太郎が思うワンランク上の衣装が届いた時にふと、これを着こなした暁にいつも抑えている欲求を開放したらどうなるだろう、という誘惑に負けてしまった。


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