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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 1.-6

「コノ子、お酒弱わーて、あんまり飲まれへんねん」
「それは見るからに。何かソフトドリンクにします?」
「あ、えっと……」友梨乃は両手で持っていた自分のグラスを見て、「同じのでいい」
「え、大丈夫すか?」
「うん……」
 友梨乃の様子を見たあと、陽太郎の方へ肩を竦めてみせた智恵が笑っている。友梨乃の言うとおりに頼んでいい、という仕草に捉えた陽太郎は自分の分も含めて注文した。
「……しかし、えーなぁ。高校生の彼女とかって、初々しいやろー」
「それはわかりませんけど。……智恵さんは彼氏いるんですか?」
「おるよー。半分チンピラのパチの店員」
 本当かどうかはわからないが、そういった風体の彼氏を想像して、正面の智恵と並べると、確かにそういう彼氏が似合いそうな気がした。といっても智恵に問うたのはワンクッションで、
「ユリ、さんは?」
 陽太郎は友梨乃のほうを向いて問うた。
「え?」
「あ、いや、彼氏おられます?」
「ほらー! ユリ、聞かれてんでー!」
 智恵は面白がるように、テーブルに肘を付いて友梨乃の方へ身を乗り出した。
「いないよ」
「え、マジすか?」
「……どういう意味?」
 少し伏せた目線だけこちらへ向けてきた。唇を結ぶような拗ねた横顔だ。
「いや、ユリさんやったら、普通にいるかな、と思って」
「おっ、何やヨーちゃん。ちょっとユリ口説きにかかってるんちゃうか?」
「いやいや、何言うてるんですか」確かにこのまま口説く方向に持っていくこともできるだろう。「智恵さんが『口説くなよ〜?』っちゅーたら、あーそういうことか、って口説きますけど、俺」
「お、そんなフリしたら、すぐ乗っかるで」
 軽いボケだ。智恵はすぐ理解したが、友梨乃はずっと眉を顰めて困った顔をしている。ノリについていけていないようだ。少しかわいそうに思ったが、その表情をもう暫く見ていたい気持ちがある。
「でもあかんで、ヨーちゃん。ユリ、好きな人いるから」
「ちょっ、智恵……!」
 友梨乃は顔を上げて智恵を睨んだ。
「へー、マジっすか」
「ずーっと片思いやねんなー?」
 智恵は顔を上げた友梨乃を覗きこむようにしてからかった表情を向けた。
「すごいっすね。一途なんですね」
 なんや、好きな男いるんか……。でもこのヒトに想われてこっちに靡かんてよっぽどのヤツやな。消沈する気持ちを振り払わなければ思いのほか気分が塞ぎそうだったから、「ずっと好きなんて、いいですね、なんか」
「何が……?」
「あ、怒らせたらすんません。片思いでも、想い続けられるって、そのヒトのことめっちゃ好きってことやから、そこまで好きになれるって羨ましいなー、と思ったんで。向こうは、ユリさんが自分のこと好きってこと知ってるんすか?」
「……」
「ほらー、ユリ。こーいうことにちゃんと答えんと、会話なんか盛り上がらへんでー?」
「あ、言いたくなかったら……」
「……知ってるよ」
 友梨乃は数度小さく頷いて、居酒屋の明かりに照らされると金色にも見える内巻きのボブの毛先を揺らしながら陽太郎を見た。少しはにかんだ表情を浮かべていたが、瞳は哀しそうに濁っていた。かわいそうなことしたなと思って、
「いやー、ユリさんに告白されてもこっち向かんやつなんて、シバいたらなあきませんねー」
 と殊更におどけた口調で智恵へ言った。
「おー、シバきに行こか……」
 智恵が言うとちょうど携帯が鳴った。「お、彼氏。……もしもしー? ……えー? なんて? 聞こえん」
 電話を当てていないほうの耳を指で塞いで話し始める。店員が持ってきたグラスを受け取って、智恵の前にジントニックを置くと目線だけで礼をされた。そしてカシスオレンジをそっと置いても気づかず、電話をする智恵を見ている友梨乃の横顔を盗み見た。なんだか、哀しい表情をしていた。好きな人の話題は地雷だったと思って、申し訳ない気持ちと、この友梨乃に哀しい思いをさせている相手に羨みと嫉妬の気持ちが巻き起こってきた。
「はぁ? マジで言うてんの? それ」
 友梨乃がジントニックに口を付けながら話している智恵から、陽太郎の方へ突然視線を向けてきた。顔には微笑みを戻している。
「……なんか、ケンカしてるみたい」
「いや、関西人やとあれ普通です」
「そうなんだ。……じゃ、私、関西には住めないなぁ。コワくて」
 と友梨乃が顔をしかめて、意図的にも見える苦笑いをしてみせる。胸がきゅっと締まった。何や、このヒトのこのリアクション。これが計算やったら、マジでヤバいな、と思って、
「いやいや、俺と智恵さんのせいで、ユリさんの中の大阪イメージ悪なってません? いいとこですよ!」
 と少しオーバーな身振りをつけて言った。
「あー、もうわかったから。……ほんじゃ、行くし。うん、近くまで行ったら電話する」
 智恵が電話を切った。「……ごめーん。彼氏が呼んでる」
「え、今から……?」
 友梨乃が見た壁の時計はもう23時を回っていた。
「しゃーないやん。何か、友達と飲んでて、彼女紹介せなあかん流れになってるらしい。行かんとあとでゴチャゴチャ言うし、顔出してくるわ」智恵は立ち上がり、陽太郎の方を向いて、「ヨーちゃん、ごめんっ!」
「あ、全然気にせんといてください」


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