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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 1.-11

 その直後に恐ろしいほどに惨めな気持ちになってこの日二回目のシャワーを浴びた。今日午前中から授業がある。何にせよとっとと寝よう、と電気を消して布団に入った。初めての環境で半日もバイトとして働いた疲れ、何杯も飲んだアルコール、すぐに眠りが訪れてこなければいけない。だがここでも友梨乃の姿が頭に蔓延ってきた。ちょ、勘弁してくれ。そう布団の中で声に出しながら、陽太郎はジャージの中に手を突っ込んで再び漲った男茎を握りしめた。友梨乃の憂いだ表情と、しなやかな肢体を思い出すとひとたまりもなかった。拭ったティッシュをゴミ箱に投げ入れたが、入らず床に転がった。明日拾おう。布団の中に精の匂いが漂っているが、明日の朝もう一度シャワーを浴びよう。そう思って目を閉じた。
 寝ているつもりだが眠れていなかった。夢にまで出てくる。ただ見る夢ではなかった。半分は現の中に身を引き戻されながら、友梨乃のせいで漲ってくる男茎を慰めずにはいられなかった。だから朝目覚めても半分しか眠らなかったような感覚だった。ベッドの下には投げ置いたティッシュがいくつも転がっていた。病気に近い。熱を出したのと同じだ、と自分に言い訳をして大学を休むことにした。
 明日の午後はバイト二日目だった。今日もバイトが入っていなくてよかった。どんな顔をして友梨乃に会えばいいのか分からない。明日までに勃起がやまないこの体と、友梨乃のことばかり想う狂的な心の状態を何とかしなければならない。すぐにヤレる女はいないかな、と陽太郎は昨日美夕との電話のあと放り投げていた携帯を拾ってアドレス帳を頭から眺めた。合コンで知り合って一回だけ抱いた女がいる。連絡がついて、もし時間を持て余しているなら、誘えば会うことはできそうだ。相手にスキがあれば、エロいことに持ち込むことも余裕でできる。だが発信を押そうとして躊躇われた。あの女はエロかった。きっとイヤラしいセックスができるだろう。それでこの止まない劣情は何度も満たせるかもしれない。しかし陽太郎は容易にその直後の虚しさも想像できた。あの女ではきっと友梨乃の代わりにはならないし、到底友梨乃には叶わない。何より胸だ。大きさだけでの話ではない。神々しくすらもあるあのバストの持ち主はそうそう見つかるわけがない。
 何様だと思いつつ、そんな無駄な金と時間を使うくらいならば、引き続き友梨乃のことを思って自分で扱いていたほうがマシだ、と結論づけた。この切ないが、馬鹿らしい劣情はいつかは尽きる。全部吐き出してしまえばいいのだ。時間を置いた男茎は鬱屈を溜め込んで張り詰めていた。一人暮らしの部屋の中で全裸になっても誰に非難されるわけではない。陽太郎はベッドに座り足を大きく開くと、その間で腹に付くほど反り返って屹立している男茎を握りしめた。すでに先走りの汁でヌメリ返った男茎を少し慰めるだけでクチュリと音がする。昨日拭わなかった放出の痕は、透明の粘液で溶け出していた。
「ゆ、友梨乃っ……」
 名前を呼ぶと、ティッシュを押し当てる余裕もなく、そのまま白い怒涛がまっすぐ何度も飛び出してフローリングを汚した。息を切らして板目の上に浮かぶ澱みを見ながら、否応にも暗闇の中に仄見えた友梨乃の裸体を頭の中で補完した姿を想像の中で横たわらせてしまって瞼が熱くなった。ふと横をみやると、姿見に自分の今の姿が映っている。
(ヤバい。何やこいつ、キモい……)
 自失寸前だった。そんなことがあり得ると信じられなかったが、受け入れずに抵抗したら本当に狂ってしまう。初日でこれだ。こんなのが毎日続いたら廃人になる。部屋の中で一人、丸裸で閉塞感から逃れるための方法を懸命に考えた。
 友梨乃に一日ぶりに会う際の表情は何度も練習した。安堵した友梨乃の表情から、それは実を結んだと言ってよかった。
「今日も、もしわからないことがあったら、私に聞いて――」
 ください、と言おうとしてやめたようだ。友梨乃が敬語を使うかどうかの判断基準はわからないが、やはりタメ口のほうが親しい感じがするから、陽太郎はそれだけで頗る胸が和んだ。
 二日目もフロアキーパーだった。恙無く時間が進んでいく。わからないことがない。窮することがなければ、友梨乃に話しかける用事もない。この後のことを考えて、業務が上の空になるかもしれないと自分で思っていた陽太郎だったが、案外不測の事態にも対応ができてトラブルもなかった。油断した時こそ大きな災禍がやってくるものなのに、結局何事もなく二十時を迎えた。
 モップと机、椅子の拭浄だ。これが終われば――、あと一時間もすれば業務が終わる。店舗業務を離れて友梨乃と話すことができる。猛烈に彼女にしたいと思っていた。好きな相手がいても、こちらへ惹きつけたいと思った。告白するのだ。どう伝えるかは懸命に考えた。迂遠な方法など要らない。この気持ちは本物なのだから、ストレートに伝えるのが一番だ。
「……ヨーちゃん、もう慣れた?」
 灰皿を積みに喫煙室に入ってきた智恵が声をかけた。
「あっ、……はい」
 手を動かしながらも、その時のことを考えすぎていたので、陽太郎は驚いて少し頓狂な声を上げた。
「なんなん? そのリアクション、こわっ」
 智恵が笑いながら陽太郎を一瞥し、返却台の下のゴミ箱を引き出している。
「すんません、不意をつかれました」
 ごまかした笑いを浮かべて、「だいぶ慣れました……、けど、ま、油断したらヤバいすよね。気ぃつけます」


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