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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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気持ちと身体-7

「先輩……」冬樹は涙ぐんで、ぺたんとシーツの上に座り込んでいた。
 勇輔は身体を起こした。「冬樹……」
「ごめんなさい。僕、できなかった……」
 勇輔も身体を起こし、そっと冬樹の身体を抱いた。そして耳元で囁いた。
「元気出せよ、冬樹。そんなに落ち込むな。俺の準備不足」
「どう考えても無理だよ。あんな狭いところに入るわけない……」
「たぶんなんか方法があるはずだ。AVなんかじゃローション使ってたりしてたし……」
「先輩……ごめん……痛かったでしょ? 乱暴してごめんなさい」
「おまえは乱暴なんかしてねえよ」
 勇輔は冬樹のうなじをそっと撫でた。

 二人の間にしばらくの沈黙があった。

 勇輔はいきなり冬樹の頬を手で包み込んで、その潤んだ瞳を見つめながら威勢良く言った。
「おしっ! 一週間後、リベンジだ、冬樹」
「え?」
「今度は絶対おまえと一つになって気持ち良くなっぞ。その道のプロに、俺、教えてもらうから」
 勇輔は優しく冬樹にキスをして、にっこり微笑んだ。
「来週も一緒に居酒屋行って、俺ンちで再挑戦。いいな?」
「先輩……」冬樹は切なそうに勇輔の目を見つめた。
「どうした、冬樹」
「抱いてて、先輩」
 勇輔も冬樹の目をじっと見つめ返した。
「僕、先輩とくっついていたい」
「わかった」勇輔はにっと笑った。

 冬樹も黒い下着を穿き直し、勇輔と並んでベッドに横になった。
「先輩、」
「ん?」
「今さらだけど、どうして僕のことを好きになってくれたの?」
 勇輔は両腕を自分の後頭部に回し、枕にして天井を見つめた。「なんでだろうな。俺にもはっきりとはわからねえ」
 冬樹は少し沈んだ声で言った。「そうなの……」
 勇輔は左腕を冬樹の頭の下に敷いた。「だけど、そんなもんじゃねえのか? 人を好きになるのにちゃんと理由がなきゃだめなのかよ」
 腕枕をされて微笑みが戻った冬樹は、勇輔に顔を向けて言った。「僕は先輩のカラダにノックアウトされた」
「カラダ?」
「うん。水着姿。音楽室でこっそりずっと見てたんだよ」
「ちっ! カラダだけかよ」勇輔は拗ねたようにまた天井を見つめた。
「でも、そこまでは妄想。ほんとに心を持って行かれたのは先輩のキス」
「え?」
「土砂降りの雨の日、キスしてくれたでしょ? 先輩。あれでもう、完全にやられちゃったんだ」
「そうだったんだ」勇輔は小さく笑った。
「先輩のキスは、最高」
「確かなのは、」勇輔は冬樹の頭の下から腕を抜き、身体を横にして冬樹に向けた。「俺、お前の弾くピアノで、どんどん熱くなってた、ってこと」
「そう……なの?」冬樹は照れたように数回瞬きをした。
「不思議なもんだぜ。おまえの弾くピアノの音、俺へのメッセージだって、途中からわかってたかんな」
「うそだよー」
 勇輔は笑った。「ま、俺の勘違いかもしんねえがな。だけど、一度、おまえがピアノ弾いてるのをこっそり見に行ったことがあってよ、その時に俺、めちゃめちゃ身体が熱くなってた。それからは確実におまえの音楽に俺の心と身体は反応するようになった。ほんとだぞ」
「嬉しい……」冬樹は勇輔の胸をそっと指でなぞった。
「おまえの一途な姿に感動したんだ」
「先輩……」
 勇輔は黙って冬樹の頭を撫でた。
「ねえねえ、先輩、」
「何だ?」
 冬樹は顔を赤らめた。「もう一回キスして」

 勇輔は唐突に身体を起こし、冬樹を見下ろした。「イヤだね!」
「えっ?!」
「俺、気に入らないことが一つある。っつーか、どうしても許せねえことが一つだけ」
 冬樹は泣きそうな顔になり、同じように身体を起こした。「な、なに? 僕、なにか先輩を怒らせることした?」
「それだよ、それ! おまえ、いつになったら俺のこと『勇輔』って呼んでくれるんだよ!」
「だ、だって……」
「いつまでも先輩、先輩って呼ばれたかねえや! そもそも『先輩』っつーのは一般名詞であって、誰にでも使える言葉じゃねえか。俺を、俺だけを呼ぶのに相応しくねえって思わねえのかよ、冬樹っ!」
 冬樹はしゅんとなって言った。「でも、僕にとっては先輩だもん」
「かーっ! んなこたわかってら!」
 冬樹は顔を上げた。「なんか、申し訳なくて……。年上の人を呼び捨てにするとか……」
「俺がお前のことを『後輩』って呼ぶのといっしょだぞ? 変だと思わねえのかよ」
「あんまり……」
 勇輔は枕をバンと叩いた。「もういい! おまえが俺のこと『勇輔』って呼ぶまでキスはお預けだ!」
 冬樹は子犬のような目を勇輔に向けて、震える声で言った。「そ、そんなー」


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