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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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男女交際-2



 その日の夜、夕食を済ませた冬樹は、家からさほど離れていない姉春菜のマンションを訪ねた。
「どうしたの? 冬樹」
 冬樹は不安そうな顔でドアの外に立ちすくんでいた。
「あの……姉ちゃん」
 もじもじしている彼に微笑みかけて、春菜は言った。
「中に入ったら?」
「う、うん」

 部屋に通された冬樹は、白い小さな座卓に向かって正座したまま困ったような顔をしていた。
 春菜がアイスコーヒーのグラスを二つ持ってきてテーブルに置くと、冬樹は顔を上げて姉を見た。
「姉ちゃん、健太郎さんとはラブラブなんでしょ?」
「なによ、突然」
 春菜も冬樹に向かい合って座り、自分のグラスに手を掛けた。

 冬樹が唐突に言った。「あ、あのさ、デートって、どんなことすればいいの?」
 春菜は思わず咥えていたストローから口を離した。
「え? あなた誰かとつき合ってるの?」
「う、うん。同級生にコクられた。今日」
「女のコ……だよね?」
「そ、そうだけど」冬樹はストローを咥えたまま上目遣いで春菜の顔を見た。

 春菜は冬樹が持っていた切り抜きの写真のことを思い出していた。

「あなたもOKしたわけ? それでもうデートの約束したんだ」
「うん」
「そうね、まず、いっぱい話してお互いを知ることね」
「どんな話題を持ち出せばいいのかな……」
「学校で話したことないの? その子と」
「これと言って……用事がある時ぐらい」
「男の子ってそうだよね。あんまりとりとめもなくだらだらと話すことはないか。女子と違って」
「とりとめもなくだらだらと話せばいいの?」
 春菜は吹き出した。「そうじゃなくって」

「あんまり共通の話題がなさそうでさ」
「その子、何か部活に入ってるの?」
「う、うん。水泳部……」
 冬樹は思わず春菜から目をそらした。
「水泳部?」

 春菜は彼が密かに持っている、あの水着の生徒の写真のことを、また思い出した。

「じゃあ、そのこと、話題にしたら?」
「そ、そうだね」

「あなた、何かおどおどしてない? 姉ちゃんの前なのに」
「そ、そんなことない」冬樹は顔を上げた。
 春菜は笑顔で言った。
「その時になればいろいろ話すことも出てくるよ」
「そうかな……」
 冬樹はグラスに刺さったストローで、中の氷を掻き回した。
「でも、急にムラムラしちゃって、強引にキスを迫ったりしちゃだめよ」
「そ、そんなことしないから!」出し抜けに冬樹は顔を上げ、真っ赤になって言った。
「あなた、心配しすぎよ。小さい頃からそうだったけど」


「ありがとう、姉ちゃん」
「楽しんでね、デート」
 冬樹は照れたように頭を掻いて、ドアの外まで見送った姉に背中を向けた。


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