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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館番外編〜始まり〜-4

彼女は長時間冷たい水に浸かっていたため、唇は青白く、体は絶えず震えていた。
『………紅様、よう………こそ。』
彼女が震えていた唇を噛み締め、精一杯の笑みを浮かべた。
『紅………様?』
『紅の猫様を………略しましたの………お嫌い?』
確かに私は猫だし、服は昨日も今日も紅色だ。
『別に、紅様だろうと、悪魔だろうと好きに呼びなよ。』
『では………紅様と呼ばせて………頂きますわ。』
今日は彼女に服がある。 しかし、その服は冷たい水を吸っていて、むしろ着ていない方が良いくらいだった。
『ごめんな……さい、はしたない格好………』
彼女は恥ずかしそうに体を隠す。 水を吸って張り付いた服は透けて、白い肌と乳房が見えているのだ。
『あ、あぁ、ごめん………』
後ろを向いて、自分の着ている紅色のマントを脱いで彼女に差し出す。
『その服脱いで、これで体を隠しなよ。』
しばらくすると、私の手からマントが離れていった。
『では………お言葉に甘えて………』
後ろから、エルフが服を脱ぐ音が聴こえてきた。
水気を含んだ服がグチャリと床に落ちる。
『もう………よろしいですよ………』
振り返ると彼女がマントを着て、座っていた。
『お優しいの………ですね………』
………あ!
ここで彼女が異端の魔女であることを思い出した。
(しまった………つい癖で………)
優しくしてしまった。 本当は絶望を与える立場なのに。
だが、今更返せとは言いづらい。 仕方なくマントは彼女の物となった。
『私………シャルナと言いますの………』
『知ってる。』
彼女に関する資料には目を通していた。
と言っても、資料には名前と、エルフであることと、イシフィア教の司祭であることしか書いていなかったが。
『紅様は………神はお嫌い?』
『そんなことを話す気は無い、改宗するの? しないの?』
私が問うと、予想通り彼女は首を横に振った。
『ここで死ぬなら………それが運命ですわ………』
『………そう、じゃあまたね。』
拒否の答えをされ、私は仕方なく部屋を出た。
『あの………』
扉を閉めると彼女が急に話しかけてきた。
『なんだい?』
『このマント……明日お返しすれば良いのですか?』
彼女は自分の体に巻き付けている私のマントを示す。
『一度魔女の身に付けたマントなんていらないよ。』
私は出来る限り冷徹に言ったつもりなのだが、彼女はクスリと微笑み。
『プレゼント………ですね………』
正直、むかっと来る。
昨日も今日も最後はいらついて窓を思いきり閉めた。
冷たい廊下を歩いていると、キシンがニヤニヤしながら寄って来た。
『明日も正午からですよ♪
お優しい紅様♪』
ピクンと猫耳が動いたと思う。
『そうかい………じゃあ、また明日。』
『なぁ、良いのかい?
あの子、きっと死んじまうぞ。』
『どうしろと?』
振り返り、キシンを見る。 キシンはわからないと言ったが、こう付け加えた。
『なぁに、お前が女にいらつくなんて珍しいからさ。』


『………』
帰りの馬車の中、シャルナの事を考えていた。
今頃、彼女は自分のマントで体を暖めているのだろうか?
水責めで冷えた体には、マントだけでは足りないだろうに………
『………』
彼女はキシンの言うとおり、死ぬまで改宗なんてしないだろう。
か弱い容姿とは裏腹に力強い意思が彼女には宿っている。
『………』
その意思を折ることが私に出来るだろうか?
非情に徹し、彼女の体に鞭を振るうことが。


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