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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館番外編〜始まり〜-20

『………兄上、どうかお許しください。
私はあのエルフが憎かった。 たった一週間足らずで貴方の愛を勝ち取ったエルフが。
兄上、覚えていますか? 昔、小国だったハンバートでこの大陸の統一を誓ったあの日。
貴方と私が居れば統一だって出来ると。
でも、本当は統一なんてどうでも良かった………
ただ、貴方と一緒に夢を追いたかっただけなのです。
兄上、私は女に産まれたかった。 そして、私は女として貴方に会いたかった。
ただ女と男の関係で側に居て欲しかった。
しかし、もうそれは叶わぬこと、どうか私を少しでも憐れと思っては下さるなら、どうか来世は女として産まれるように祈って欲しい。
あとのことはお任せします、貴方の望む地位、望む富を得られるように大臣達に遺書を残しました。
………もし私が女に生まれ変わってまた会えたら、私を愛して欲しい。
ナインツ=ウェア=ハンバート』
手紙を読み終えた私は、しばらく立ち尽くしていた。
ナインツがそこまで私を想っていたとは………
『………神よ、どうかナインツに祝福を………』
私の頬に、涙が伝う………
君の気持ちに気付けなかった私を許してくれ………
『ウェザ殿………遺言通り、貴方の望むように致します。』
大臣が近付いてきた。
私の望む地位………
『………大公爵の位を頂きたい。
それと、王家教育者の資格も。』
私の言葉に大臣と妃はポカンと口を開けていた。
大公爵とは、爵位の最高位だが政治には関わらない。 いわば名前だけのものだった。
『それだけでよろしいので?』
『あぁ、それだけだ。
私はこれから昔の名前を名乗る。
ウェザ=リスタンス=ウィズフライトだ。』
妃や大臣はどうか王位を継いでくれと懇願した。
しかし私はそれを受けなかった。 私はもう政治には関わらない。
王家の教育者で、次世代の統率者を育てるだけで良いのだ。
何より、私はシャルナと共に過ごす時間が欲しかった。 そのためには大公爵が丁度良いのだ。



それから、月日は翔ぶように過ぎていった。
妃は無事に男の子を産み、王家の後継ぎは出来た。

私の屋敷は、シャルナとの相談の上、見寄の無い女の子を引き取り育てる。
一種の孤児院のようなものを作ることにした。 それは次第に受け入れる対象が若い女性となり、後に紅館となる孤児院だった。
六英雄の三人、キシン、アルクウェル、ヨウヤチネはそれぞれ希望する道を選んだ。
キシンは軍隊に復帰、今では王都守備を任される隊で、元帥と呼ばれるほど出世している。
海に魅せられたエルフ、そのエルフ達の族長であるアルクウェルはある日、中型の帆船を操り海に旅立った。
睡魔に魅せられた淫魔、ヨウヤチネは、新しく建てられた水竜館の最上階の一室で今も眠りについている。
彼女が起きるのは数年先か、数百年先か。 ただ彼女は暗闇の中で眠り続ける。

私が大公爵になってから、17年が過ぎた。
ある日、私は急いで紅館に帰ってきた。 ついにシャルナに最後が来たのだ。
今、私の腕の中にはシャルナが抱かれている。
力無く寄りかかるシャルナに残された時間はもう………無い。
『………楽しかったですわ………この17年という歳月………女として………幸せです………』
もうすぐこの声も聞けなくなるというのに、私は笑っていた。
きっと、17年の思い出が幸せ過ぎたのだ。
泣くことも、忘れるくらい。
『………もう一度、過ごしたいな。
君と一緒に………』
そっと、抱き締める。
愛する人の背中を撫でると、ふんわりと髪の良い匂いがした。


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