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サノバ・ビッチ
【レイプ 官能小説】

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Tデパート-2


入社して半年たった頃、高橋がF支店を訪れた。
あの悪夢のような夜以来、電話では何度か話したことがあったが、直接会うのは初めてのことだった。

「頑張ってるらしいな」

あんなおぞましいことがあったにもかかわらず、久しぶりに見る高橋の笑顔は、何故か俺をホッとさせた。

人事部長がじきじきに売り場にやってきて俺に親しげに話しかけるのを、他の社員たちが驚きの表情で見ている。

いままで俺を「コネ入社」とさんざんコケにしていたやつらも、バックにいたのがまさか人事部長だとは思っていなかったようだ。

「やっぱりワシの目は確かやったな。あんたを引き抜いて正解やったわ」

「──ありがとうございます」

「ちょっと、煙草行こか」

周りの社員たちの羨望の眼差しの中、俺は高橋に連れられて喫煙室へと向かった。

あの晩の出来事は、俺の中で決してクリアになったわけではない。

薬を飲まされ、体中をまさぐられ、無理やりキスをされて、陰茎を舐められた。
あのときの感触を思い出すだけで、俺は今でも吐いてしまいそうなほどの強烈な不快感に襲われる。


しかし、高橋がいたから、高橋に目をかけてもらったからこそ、俺は今ここにこうして立っていることができるのだ

つい半年前まで、ゴキブリが這いずりまわるあのリメイクミシンの社員寮で陰鬱な日々を送っていた俺にとって、やっと手に入れたこの華やかな舞台は、簡単には手放し難いものだった。

高橋に対して強烈な軽蔑感があるにもかかわらず、俺はこの男を切ることはできない。

いや、それどころか、高橋がこうして忙しい仕事の合間に俺の様子を見に来たり、声をかけてくれることが嬉しいとすら感じている。

それは高橋が人事部長という肩書を持っているから──つまりは俺にとってまだ利用価値があるからなのだろうか。


いや、むしろそれならば俺はこんなに苦しまないだろう。

俺は自分でも呆れてしまうほどに、この高橋という男を「慕って」しまっている。

俺の人生の中にぽっかりと空いていた「父親」という空洞に、高橋は実に巧妙に、ぴったりとはまりこんで、抜けなくなってしまったのだ。

───────

「で、どうや最近、女のほうは?」

喫煙室に入った途端、高橋が仕事の業績でも聞くような真面目な調子で俺に聞いてきた。

「なんぞおもろい話でもあるか?」

昼休憩がひととおり終わった後の中途半端な時間帯のせいか、ヤニで汚れた小さな部屋には俺たち以外誰もいない。

ディープな話をするには都合のいい環境といえたが、俺のほうには全くそういうネタはなかった。

「女の話なんかありませんよ」

「彼女とかそういう話聞いとるんちゃうで。女やオ、ン、ナ」

「わかってます。でも、部長が大阪へ帰られてからそういうのは全然。飲みに行くときも一人ですし」

俺はそもそも女は嫌いだし、関わらずに生きていけるならばそれでも構わないと思っている。

10代のころのような込み上げる性欲も今はない。

高橋と過ごした数年間で、女遊びは「十分やり尽くした」という感覚が自分の中にあった。

「──はっ!なんやねん。しょうもない男やなお前は」

煙草の煙を口の端から勢いよく吐きながら、高橋が呆れたような笑いをもらす。

「勿体無い話や。宝の持ち腐れやで」

「いや、今は正直──」

「仕事が楽しいからとか、つまらん言い訳したらあかんで」

言おうとしたことを先回りで言われてしまい、俺が思わず顔をあげると、高橋はひどくおかしそうに「あっはっは」と笑いながら背もたれに反り返った。

「あいかわらずクソ真面目やな、あんたは。まぁそこが気に入ったところでもあるんやけどな」

「俺に一日も早く主任になれとおっしゃったのは部長です。俺はその言葉に応えようと頑張ってるんですよ」

「ああそうや。ちゃんとわかっとるがな」


高橋に襲われかかった時、俺はもうこの人との関係は終わったと思った。

俺がこの人の期待しているような行為を受け入れることはこの先絶対にないと思う。

高橋が俺にどんなに目をかけてくれたとしても、最終目的がそこにあるならば意味が全く変わってくるのだ。

しかしその後、高橋は突然俺に「頼みたいこと」があると言い出した。

『今後あんたにこういう関係を強要はせえへん。約束するわ──その代わり、あんたに頼みたいことがあんねん』

『──頼みたいこと?』

『そうや……あんたにうちの会社に入ってもらって、是非やってもらいたい特別な仕事がある』

『特別な……仕事』

『せやからすぐにでも入社して、一日も早う主任になるんや。そしてワシの右腕として頑張ってくれ』


そのとき高橋は、その仕事が何であるかという具体的な内容は言わなかった。


だが、わざわざ「会社に入って」という言い方をするということは、俺が持っている技術や知識をTデパートで生かすような仕事だろうと、そのとき俺は考えていた。

それはつまり、高橋が俺のリメイクミシンでの仕事ぶりを認めてくれているということなのだろう。
俺は高橋の言葉を勝手にそう解釈した。

一流企業であるTデパートに入って、俺にしか出来ない仕事を任される──。
そのあまりに魅力的なエサは、俺の判断能力を鈍らせた。


今を逃せば、この人とは恐らくもう二度と会うこともないだろう。
これはチャンスだ。
俺は新しい人生を歩むことが出来る。

リメイクミシンをやめて、腐った先輩連中や、無能な社長ともこれでおさらばするのだ。

あんなに屈辱的なことをされた直後だったにもかかわらず、俺はあの時、自らまんまと高橋の罠にはまりにいってしまったのだ。


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