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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-36

 肩を跳ねさせた杏奈が瑞穂から目を逸らし、
「そんなんで泣きわめかないよ、私」
「あんた、私にソレ言う? ……浮気されて何回わめき散らすあんたをナデナデしてやったと思ってんの」
「あー……、そうだね……」
 両手で握った梅酒のグラスをゆっくりとテーブルに下ろして、「なんでだろ?」
 瑞穂は気合づけにチューハイを一気に半分まで飲み、タン、と鳴らしてテーブルに置いた。音にビックリして見やる杏奈を見据え、
「恐ろしい想像してんの教えてあげよっか? ……あんた、他に好きな男できてるだろ? しかも、すっごいいい感じになってる」
 と言った。
「……、……そんなわけないじゃん?」
「わっかりやすいな、そのリアクション。……どうしたの? あんた一途な子だと思ってたけど」
「そうだよ」
「じゃ、何でアワアワしてんの」
「してないよ」
「首絞めてでも吐かせてやろうか?」
 こんな感じになってしまった杏奈から真実を引き出すのに労力がかかることを瑞穂はよく知っていたから、もう一度チューハイを手にとって、ベッドに後ろ手について傾けながら続ける。
「学校に更にステキな細マッチョでも現れたか?」
「んーん、若干イケてない薬学男子しかいない」
「ヒドイこと言うね。じゃあ、どっかのバイト先で、カワイイねっていっぱいホメてもらったのか?」
「バイトは前に言った家庭教師しかしてないよ」
「じゃ、それだ。家庭教師先の教え子が可愛くて好きになっちゃったってか」
「……、……」
 冗談を挟んで徐々にその相手を探っていこうとした矢先、数秒反応を示さない杏奈に瑞穂が咽せた。肌と布団の上に口から散ったチューハイを慌てて手で拭いながら、
「おいっ! ……何か言え」
 と呼びかける。
「なに?」
「冗談だよね?」
「冗談……、だといいね」
 カレシが出来た、と言ってきた時に杏奈と交わした会話の記憶を辿った瑞穂が、思い違いがあってほしいと願いつつ、杏奈に語りかける。
「カレシの従弟でしょ? 教え子」
「……そうだよ」
「いくつ、つってたっけ」
「じゅう……、さん?」
 記憶違いではなかった、と瑞穂はたじろぎながら、咳払いを一つした。
「ね、杏奈。ウチら、今年何歳だっけ?」
「知らない……」
「真面目に答えて?」
「……二十三になるね。でも私、瑞穂と違って早生まれだから二十二だよ」
「そうですね。まだ二十二歳ですね。よかったですねぇ? ……ね、杏奈。勉強ができるあんたにはごく簡単な質問なんだけど。23引く13はいくつ?」
「……これから十五歳差で結婚する人知ってるよ。瑞穂みたいに同じ歳で結婚する人ばっかじゃない」
「ちょっと、杏奈……。好きになるにも、相手を選べよ……」
「好きになったんじゃないよ。好かれたんだよ」
「……めんどくせぇ! 杏奈、今まであんたとつきあってきた中で、一番めんどくせぇよ!」
 呆れて身を起こした瑞穂の前で、突然杏奈が額を音を立ててテーブルに打ち付けて突っ伏した。
「だってっ! ……そーなっちゃったんだもん……! 仕方ないでしょう?」
「逆ギレかよ……。もっと強く頭打ってみな? 目覚めるかもよ」
 瑞穂は苦笑して、杏奈の減ったグラスに梅酒を注ごうとして途中で思い直し、残りをソーダ水で満たした。
「やだ、たんこぶできる。……優くんに顔見せれなくなる……」
「……その優太だか優介だか何かに『センセイ好きだよ』って言われて、ほだされちゃったんだ?」
「優也だよ。久我山優也。かっこいい名前だよね……。たんこぶできても、きっと好きだよって言ってくれそう……」
「いや、知らんけどさ。ほだされまくってんじゃん。……持ってるだろ、どーせ。あんたのことだから」
「何が……?」
「写真。見せてみな? あんたをここまでめんどくさくする少年見てやるよ」
「ん」
 杏奈はテーブルに置いた片手に顎をのせたままスマホを操作して瑞穂に差し出した。「……ヤバいよ、かわいくて。鼻血でちゃうよ」
 なんだコイツもう、これで相手チャラかったら承知しないぞ、と思いながら瑞穂は受け取った画面の中ではにかむ優也を見た。言葉なく、しばらく眺めてから、諦めたような溜息をついた。
「……ヤバいね、何だこの子。何でこんなにエロい感じの美少年なの」
「でしょぉ……。睫毛長くて、女の子みたいな顔してて、ハッキリとした二重がヤバい……」
「日本人だよね? この子」
「だからぁ、名前は久我山優也くん、だってば……。日本人なのは半分だけだけど、そんなの関係ないよねぇ……、……優くん、本、超読んでて、いっぱい小説知ってるんだから」
(吐かせるにしてもちょっと飲ませすぎたか……)
 瑞穂は目を閉じてウットリとした顔で思い描いている杏奈を眺めて後悔した。だが案外杏奈は意識がはっきりしていて、アルコールに溺れているわけではなかった。仄かな酔いの中で、優也のことを思い出し、口にしていると自然とそのような表情になるのだ。


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