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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-37

「……その子がね。最初会ったときは、ガチガチに殻に閉じこもってんの。それを私がねぇ、勉強教えながら、一つ一つ殻を剥がしていったの。苦手な算数を教えてあげたら、一つ憶えるごとにキラキラした目向けてきてね……。したら、どんどんスキスキ光線に変わって、私のこと見てくんの。……ヤバいでしょ? 誰だってそうなっちゃう。だから……」
「だから……?」
「……優くんは、可哀想な子なんだよ。お母さんいなくなっちゃったし、お父さんは遠くにいるし。人と話すのがすっごい苦手で……、でも私にはたくさん喋ってくれるようになって……」
「何だそれ。どこのレディコミだよ。ちょっと杏奈っ」
 こりゃ思ってた以上に話聞いてるのしんどいわ、と瑞穂は新たなタバコに火をつけて、眠りに落ちそうに見えた杏奈の肩をゆすった。
「起きてる」
「そりゃ、よかったです」
「……イジメられたんだ」
「は?」
「優くん、小学校で、ホステスさんだったお母さんとか、遠くで働くお父さんのこととか……。そんなカワイイ顔してるのに、顔のこととかでみんなにイジメられて、……そんで、誰も助けてもらえなくて、学校に行けなくなっちゃったの。学校に行こうとしたら、吐いちゃって、眩暈がして倒れちゃうの。だから、家で本ばかり読んで何年も暮らしてきたの。お婆ちゃんと二人きりで。ずっとだよ?」
「……」
「私は瑞穂がいたよ? でも、優くんは誰もいなかったんだ……」
「……だから、あんたが、側に付いてやろうとしてんの?」
「そうだよ」
 瑞穂はイジメられていた時の杏奈の様子を思い出した。確かに自分と同じ境遇の少年を見つけたら、杏奈が何とかしたくなるのは性格を知っているだけに納得できた。だがそんな少年に心を奪われてしまうような杏奈は初めて見た。周りの状況が見えなくなっている。この子、こんなに燃えちゃう子だっけ?
「……だいたい、優也? 優くん? が、あんたを何でそんなに好きになっちゃうわけ? 家庭教師中に何か変なことしたんじゃない?」
「ひどい……私、なんもしてないよぉ。……好きになっちゃうのは、杏奈センセイがカワイイからに決まってんじゃん」
「十三の男の子の前で、オトナの女がちょっと何かしてやりゃ、イチコロだって私でも分かるよ」
「勉強教えてあげただけだよ」
「勉強できたごほうびにチューでもしてやったか?」
「……、……。……するわけないじゃん」
「してんのかよっ……!」
 瑞穂は息を呑む拍子に、気管に直接副流煙を吸ってしまって咳込んだ。
「してんじゃないの。されたの。映画館で」
「どうせそれは最初の一回目だろ? 会うと毎回映画見に行ってんの? 違うでしょ?」
「……うんそうだね」
「そして何だ、このムーディな場所はよ」
 瑞穂はもう一度画面に映されている二人を見た。「なーにが『オリビア』だよ。こっちの方のオトコとは別れる気サラサラ無いじゃん。しかもなんつー恋する女の目で写ってんだよ、あんた。これってチューしたあとの写真?」
「したあと、と、する前……」
 大変なことになってる、と思った瑞穂は、
「あんた、いい加減にしないと、淫行で捕まっちゃうよ? 男の子に女がイタズラしても成立するって聞いたよ?」
 と諭すように言った。
「……お金払ってるわけじゃない、本気どうしなら大丈夫、って聞いたことあるもん」
「杏奈、私、マジメに言ってるよ」
「私もマジメに言ってるよ」
 出たよこの意固地女。瑞穂は溜息をついて、一度気を取り直した。
「……あんた、まさか、それ以上してんじゃないでしょうね? この子の童貞、もう頂いちゃってるとか言わないでね?」
「……。そんなことできるわけないじゃん。……できないよ」
 杏奈の表情から、それは真実だと読み取ったが、頬が赤らんでいる。こりゃいかん。完全にイカれてしまってる。もうヤるのも時間の問題だ。「できないよ」なんて、ヤリたがっていなければ絶対に言わない。
「……杏奈」
「ん?」
「わたし、あんたの親友だよね? わたしは杏奈を親友だって思ってるよ」
「……どうしたの急に」
「どうなの?」
「もちろん、私も瑞穂を親友だと思ってるよ。私が今こうして大学行ってるのも、瑞穂がいなきゃありえなかったもの」
 急に改まった瑞穂の態度に、杏奈の酔いが俄かに晴れてきた。テーブルから身を起こして見ると、瑞穂は真摯な、そして怖い表情をしている。
「――あんた、家庭教師辞めたほうがいいよ」
「……。何言ってんの?」
「親友としてのアドバイスだよ」
 瑞穂はもう一本チューハイの蓋を開けた。
「酔っ払ってるの?」
「極めてフツー。いや、ちょっとイカッてるかもしれないけど、まぁ、冷静に話はできます」
「何で怒るの?」
「あんたがとんでもないことしてるからだよ」


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