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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-4




和音にとって、不本意な約束を取り付けられたあの日から一週間が経った。
今の和音はブレザー姿で、自分が通う高校に来ていた。
今日は春休みの春期講習の日。一応和音も大学受験生の端くれ。
ましてや春休み前半に限ってはずっと鼓笛隊の練習に明け暮れる毎日を送っていたので全く参加をしなかったが、この日は春期講習再開日。どうしても参加をしたかった。

2年、使い慣れた下駄箱から上履きを取り出してローファーと履き替えて昇降口を後にした。
教室に向かう途中で、廊下に掲示してある自分のクラス分けテストの結果を見てから。
足を止めることなく、上のクラスでもあるαクラスに自分の名前があることを確認し、教室に向かう。
目的のクラスに着いた和音は教室のドアを躊躇いなく開けた。
教室内には既に何人かの生徒が居て、自分に好奇の目を向けるのが分かった。
和音は気にすることもなく、そのまま彼女たちの前を横切り、後ろの窓際の席に座った。
特にすることもなくケータイを取り出して、適当に弄って時間を潰す。彼女たちのヒソヒソ話が耳に入らないように。

「(・・横切る時に見たけど、緑のネクタイってことは特進組か)」

ふうっと溜息をついて自分の首に巻いている青いネクタイをちらっと見た。
青いネクタイは、大学受験時、推薦が優遇される進学コースの証。
緑のネクタイは、偏差値が高く、難関大学を目指す特別進学・・称して特進コースの証。
そして、今自分がいる講習のクラス分けテストの結果でのクラスはα。

「(ま、気に入らないってところか)」

そういうことが理由なら、確かにヒソヒソ話もしたくなる気持ちがわかるだろう。
特進コースは特に競争心が強く、ピリピリしている空気がある。中にはライバルを蹴落とそうとする生徒もいるという噂が流れている。
ましてや、自分は推薦入試が優遇される青いネクタイを身につけている進学コース。一般入試のための夏期講習に出る必要は無いだろうと思われているに違いないと和音は溜息をついた。
そんな時だった。
先程の自分と同じように堂々とした態度で教室を開けて入ってきた同じ青いネクタイをしている生徒が入ってきたのは。
特進組から向けられる冷たい視線を睨み返し、和音と目があった瞬間に笑顔でこちらに駆け寄った。

「和音ー!!会いたかったーっ!!」
「うっ・・し、雫・・痛い・・」

机があるというのに、それを意にも介さずにタックルして来て自分をぎゅうううと抱きしめてくる親友にギブの意思を伝える為に肩を叩く。親友の妬ましくなるような豊満な胸に息苦しくなり、本気で肩を叩く。
それに気付いた親友は、「あぁ!ゴメン、ゴメンね!和音!」と言いながらすぐさま腕の拘束を解いた。
と、同時に肺まで届かなかった酸素と、喉で詰まっていた二酸化炭素を必死に入れ替える。速くなった呼吸に和音は身体を前屈みにして喉元に手を当て、ゆっくり口から息を吐くように心がけて対処する。
やっと落ち着いた頃、和音は自分の正面に居る親友を睨んだ。

「雫・・殺す気?」
「えぇ!!そんな訳ないよ!!和音が居なくてずっと寂しかったのにぃ!!」
「あー。うん、分かった、悪かったよ、だから涙目になるのは止めて」

親友の、今にも涙が溢れんばかりの顔を見て、和音は自分の言葉を撤回した。
いつものやり取りではあるものの、さすがに一ヶ月会わないと扱いを忘れているようだ。
とりあえず、親友の涙には弱いので、よしよしと頭を撫でる。
自分が椅子に座っているおかげでいつもより距離があるが、ちゃんと届いた。
撫でられて、先程の涙はどこに行ったのかというほど単純に嬉しそうな笑顔を見せる親友に、和音は少し笑みを零した。少し、癒された気がした。

高橋雫。和音と同じ進学コース在籍の、癒し系女子。スタイルが抜群で、モデルの仕事をこなすしっかりもの。そのしっかりさは勉強にも現れ、一度も手を抜いたことがない試験は常にトップの成績を取っている。だからと言って妬まれる事はなく、人当たりのよさからクラスメイトだけではなく、後輩や先生からも愛されている。
そこまでならパーフェクトガールの唯一の欠点が、可愛いものを見ると我を忘れて抱きつき、可愛がることだ。
その「可愛い」に親友である和音も何故か入るようで、いつも抱きつかれ、可愛がられている。
和音自身、別に嫌ではないのだが和音の身長がそこまで高くなく、また雫のそのスタイルの良さから生まれた、絶対に遺伝だと思われる豊満な胸に顔を押し付けられる羽目になるので程々にして欲しいのが現状だ。


「ところで、和音。どうなったの?」
「何が?」

和音の隣の席に荷物を置いて、腰掛けた雫が聞いた。目的語が無くて、和音には伝わらなかったが。

「メールで言ってたでしょ?鼓笛隊辞められなくなったって」
「あー・・・」
「あの約束、本気だったの?」
「・・まあ、うん・・」

元々、親友である雫には鼓笛隊を卒業することは前もって言ってあったものの、まさか思ってもなかった展開になってしまって、それからずっとメールをやり取りしていたのだ。

「メアド交換して、マウスピースを買いに行くのも付き合って・・珍しいよね、和音がそこまで。」
「・・自分でも分かってるよ、そんなこと」

先程癒された気持ちがどこかへ行ってしまう程、和音は重苦しくため息をついた。
あの約束を交わしたあと、あまり関わりたくないがためにしなかったメアド交換をして、その足で和音が良く通う、駅前にある楽器専門店へと連れて行かれた。
何を買うのかと想えば、ホルンなど金管楽器を吹く為に必要なマウスピースだった。
楽器本体ではなかったものの、マウスピースだってそこまで安くはない。なのにも関わらず、まさか自分に持ちかけた約束の為に本当に買うとは思わずにただ驚きを隠せなかった。


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