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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-5



出来る事ならあの約束を無かったことにしたい和音だったが、今週末の練習に参加しなくてはならなくなってしまった。
本来なら、その日が卒業する日だった。
だが昨日の夜に早速メールが来た以上、行かないという選択肢は無かった。
勿論、嘘をついて断ることも出来るが、奏多から後で、一週間前に言われた「音楽から逃げた」と思われるのは嫌だった。

だけど。

「・・私は、早く卒業したいのに・・・」

一刻も早く鼓笛隊・ホルンからの卒業。それが和音の悲痛な願いだった。
段々と痛み出した頭を抱えて、和音は目を閉じる。
瞼の裏に思い起こされるのはいつか見た、映像。自分とさほど変わらない年の少女がトランペットを演奏している舞台。
あの映像を見た日から、忘れようとしても忘れられない忌々しいモノ。
和音が必死に消し去ろうとすると、慌てた表情で覗き込む雫の姿が視界に入った。

「和音・・!ゆっくり息を吐いて・・!!」

表情と同じくらい動揺している声を聞いた気がしたが、すぐに息苦しさで何も考えられなくなる。雫が和音の背中に腕を回して幼子にするようにトントンとゆっくりしたリズムを刻み込む。雫の胸に頭を預けて、必死に呼吸を落ち着かせようとする和音。
だがそれも逆効果で、ますます呼吸が早くなり、深くなる。
段々と痺れ始める手が雫の制服を弱々しくもギュッと握り締める。
一向に良くならない過呼吸を起こしている和音を見て、雫はもう一度顔を覗き込んだ。

「和音、ゆっくり。焦らなくて良いから、ゆっくり。」
「はっ、はっ、は、・・はぁ、はぁ・・」

先程とは変わって雫の落ち着いた声に安心し、背中を叩くリズムに合わせるように息をゆっくり吐き始める。そうして少しずつ正常な呼吸のリズムに戻していった。
時間にして、10分だっただろうか。
それほどの時間をかけ、ようやく落ち着いた和音は過呼吸の疲れと身体のだるさを感じていた。未だ自分に寄りかかり、離れようとしない和音を見て、雫は和音が落ち着いた事に一安心を覚えながらも悲しそうな顔で背中を叩き続ける。
後ろの窓際の席を選んでいたことで、他の生徒に気にされることもなかった。

「・・和音、大丈夫?」
「・・・うん。・・ゴメン、ありがと」
「私のことは良いんだけど・・」

何よりも和音が心配な雫はそう言葉を濁した。
それが伝わったのか、和音は顔を上げて雫を見上げた。身体を離して、椅子に座り直す。
大きく息を一つ吐くと、いつも彼女に見せている強気な笑みを向ける。

「もう大丈夫だから。心配しないで」
「・・あまり無理しないでね」
「うん、分かった。」

力強く頷いてみせると、やっと安心出来た雫は笑顔を見せた。
自分のせいとはいえ、やっぱり親友の辛そうな表情は見たくないもので、どうしても笑顔になって欲しいと思う。
和音は過呼吸が早く収まって良かったと心の底から思った。いや、本来なら起こさないのが一番なのだが、つい油断をしたようだ。

「(学校ではネガティブにならないって決めたのに・・。)」

一応、自分が過呼吸になった時の対処法を雫に教えておいているとは言え、雫からしたら見たいモノでもないだろう。だから、学校では暗い考えをするのは止めておこうと決意していたはずだったが、意外なところでもあの約束が自分に取って大きな錘の枷となっているようだ。
そこまで思考した和音は、慌てて振り払う。また過呼吸になっても困る。

「(ダメだ、これ以上考えるな自分!雫にだって言ってないのに、バレる!)」

それだけはなんとしても避けたい。心優しい雫にバレてしまったら、何を言おうとも心配し、病院送りにされかれない。もしくは自分にずっと付き従ってしまうだろう。
和音は改めて、もう油断をしないと決意をした。
その時、講習の先生が教室に入ってくる。特進コースの生徒が各々席に着き、授業を聞く体制を作り始めた。慌てて彼女たちと同じように授業の準備を始める雫を頬杖をつきながら優しい表情で見つめる。

「(この子を、私の問題に巻き込むわけにはいかないからね。)」

準備を終えたらしい雫が、自分を優しく見つめる和音に気付いて照れくさそうに、でも柔らかな笑顔を見せる。その笑顔につられるように、和音も笑みを零した。


「(はー・・あの約束、どうしよ。)」

雫に向けた笑顔とは裏腹に、心の中では溜息をついていた。





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