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生命の木〜少女愛者の苦悩
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誘惑者は内側に-1

 緑川が目を覚ましたのは朝の六時頃だった。まだ早いと思ってまた目を閉じた。外は晴れか曇りらしく、雨音はしていない。きのう抱いた二人の女との会話を思い出し、触れた左手の指を、まどろんだまま緑川は口に当ててみた。それが新鮮に強くにおったとき、緑川は少女のことを初めて思い出した。頭痛と酔いの残っているはっきりしない意識で、緑川は少女のいないことと、その衣服が布団の横に置いてあることとを知った。少女を裸にした、その先が思い出せなかった。最後には布団に入れて眠ったはずだった。
 緑川は体を起こした。卓袱台に紙切れがあり、それに、ありがとうございました、服を借りていきますと書いてあった。名前も住所もなかった。そうしてみると、少女は帰ったのだ。緑川は念のため、投げてあった財布を調べてみたが、金はなくなっていなかった。尤も、盗られていても構わないと思うのだった。押し入れのティーシャツと短パンとが一つなくなっていたから、それを着ていったのに違いない。布団の横の少女の服は、靴下からスカート、下着、全てあった。髪飾りまであった。
 携帯電話が転がっていた。出した記憶は何もなかった。緑川は中を確認して驚いた。実に百枚以上、昨晩の緑川の奇行と痴態とが記録されていたのである。少女の体のありとあらゆる部分、例えばつむじや爪の一つ一つまでが執拗に写され、後半が動画になっていた。
 緑川は自分を悪魔だと思った。激しい恐怖が襲い、犯罪者に成り下がった自分におののいた。冷蔵庫に走ってビールを開けると一気に飲んだ。一体、自分はどうなるのか。緑川は少女の服をまとめてごみ袋に入れた。そのとき落ちた下着を見た。緑がかったような薄茶色に汚れていて、焦げ茶色の染みもあった。緑川はそれを手に取り、鼻に当て、それから丸めてごみ袋に投げ込んだ。ごみ袋は押し入れに放り、戸を閉めた。
 ビールを数缶飲んだ緑川は、苦しい眠りに落ちていった。

 呼び鈴が鳴った。目を覚ました緑川は、回覧板ですとの内容に応じる気はまるでなかったが、それが声でズザンナだと分かると、吸い寄せられるように出ていった。
 戸が開いて緑川を見たズザンナははっとした。下着姿の緑川のトランクスの前が高く盛り上がっていた。ズザンナは首まで真っ赤になった。しかし、緑川の様子がおかしいことに気づいたズザンナは、気持ちをそこに向けるまいと心に決めた。
「おじさん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。酔いがひどくって。」
ズザンナは、緑川の部屋のいつもと違う臭気が気になった。そして、どこかで嗅いだにおいだとは思ったが、思い当たっていよいよ恥ずかしくなった。男の人もこんなにおいがするのだろうか。しかし、きっとごみか何かが偶然そうなっているのだろうとズザンナは判断した。
 緑川は泥酔甚だしい様子だった。立っているのもやっとであるらしい。
「おじさん、あたしがお掃除してあげる。」
とズザンナは自分から上がり、緑川を支えた。大人の男の体の大きさをズザンナは肌で感じて、また赤くなった。緑川は、ズザンナに触れた喜びより安心が先に立って、意識が遠のいた。横になった緑川はすぐに寝息を立て始めた。
 掃除機をかけ、ごみをまとめたズザンナが緑川を見ると、布団は跳ね上げられ、腹を出していた。暑いのかしらと思って行ってみた。しゃがんでズザンナが布団を直そうとしたとき、緑川が片脚を立て、ゆるいトランクスの付け根の口から、もはや力の抜けた男のものがこぼれ出た。見て、しまわなければと慌てたズザンナは、咄嗟に両手を出してそれを包んだまま、手が離せなくなった。そうしてむしろ全部包み込んだ。男子が呼んでいる通りのものを手のひらに感じ、指先に当たってくる重みと危なげなやわらかさとに驚いた。しばらくそのままでいたズザンナの心はなぜかしかし落ち着いてきた。そして自分が正しいことをしているように思われてきた。ズザンナは包んでいた両手を開き、そこへ恐れずに目を向けた。ズザンナは男の人を分かった気がした。それは見かけと違う弱いものだと思った。ズザンナは、両手に掬うように、そこへ心のこもった口づけをした。力の戻った緑川が、ズザンナには母親のように愛おしかった。
 その晩、ベッドの中のズザンナは、自分が女であることを初めて体で意識し、知った。


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