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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま
【ファンタジー 官能小説】

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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま-3


 ナリーファは初めてシャラフに寝室を訪問されてから、毎晩ひたすら熱心に、抱かれる前に彼を寝かしつけるよう励んでいた。
 こうやって膝に頭を乗せた彼に、御伽噺を聞かせるのだ。
 それはナリーファの故郷に伝わる民話だったり、彼女の創作した物語だったりする。

 故郷でも、滅多に宮殿からは出なかったが、本を読むのも、お年よりから民話を聞くのも好きだったし、自分で空想の冒険を思い描くのは、もっと大好きだ。
 勇敢な王子に悪辣な魔法使い、ランプの精に囚われの姫君、財宝を求めて船乗りになった商人……ナリーファの中で、物語はオアシスの水のように、いくらでも沸いてでる。

 物語を聞くうちに、いつもシャラフは、心地良さそうにうとうとと眠ってしまう。
 そして翌朝、目覚めた彼が政務に行くと、ナリーファはやっと眠れるのだ。

 妙なことに、彼は途中で眠ってしまうクセに、ナリーファがどこまで話したのか、きちんと覚えていて、翌晩には必ず続きを催促する。物語が終わっていれば、新しいものを要求する。

 そしてナリーファはまた話をし、眠った彼を起こさないように、静かに一晩中起きて寄り添う……これを千夜も繰り返していた。


「誰が駄目だと言った。……癪に障るが、話の続きが気になって仕方ないから来たんだ」

 やや不機嫌そうな声で、シャラフが唸った。
 仕方なしの成り行きとはいえ、彼は、ナリーファがこっそりと自分の中だけに溜めていた物語を、初めて聞かせた人だ。

 初めての夜を過ごした翌朝、彼は自分でも知らずに眠ってしまったことに驚き、とても怖い顔でナリーファを睨みつけた。
 てっきり、怒られるのかと思って身をすくめると、『面白かった。今夜も必ず続きを話せ』と、言い放たれて、あっけにとられた。

『卑しい身分から産まれた、出来損ないのみそっかす王女』という評価しか受けていなかったナリーファにとって、初めて受けた賞賛であった。

 立ち去るシャラフの後姿が角に消えた途端、膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。
 率直で偽りのない一言が、心にたまっていた長年の鬱屈を、洗い流してくれた気がした。

 それから、毎晩やってくるシャラフと過ごすうちに、彼が噂されているような残虐非道な男ではないように思えてきた。
 いつも自信に満ちて堂々とし、傲然とした態度で、物の言い方もきつい男だ。
 それでも彼はナリーファに乱暴をしたことは一度もなく、何か困ったことはないかと、いつも気にかけてくれる。

 王座のために異母兄弟を皆殺しにし、自分の政策に逆った家臣たちを容赦なく処刑し、夜伽で失敗した女も寝所で斬り殺す、とまで聞いていたのに、実際の彼は随分な違いだ。

 ある日、シャラフの側近が、王が急用で来られなくなったと伝えに来たときに、思い切って彼のことを聞いてみた。
 すると、異母兄弟を七人殺し、三人を僧院送りにして王位を勝ち取ったというのは、本当だそうだ。
 ただしこの国の王家では、異母兄弟の一人が王位を継げば、残りは皆殺しにされるのが常だという。
 むしろシャラフは、助命を請う三人を助けたことで、火種を残したと非難されたらしい。

 王位を継いだ当時のシャラフは、ナリーファが嫁いだのと同じ歳だったはずだ。
 自分なら、とてもそんな過酷な場所に身をおけず、置いたとしても即座に殺されてしまうだろうと、身震いした。

 さらに即位後の悪評は、前王が老齢で判断力が低下していたのに漬け込んで暴利をむさぼっていた家臣や、役人の腐敗を一掃したことで、支配層の一部から強烈な反感を買ったのだという。
 勿論、夜伽に不満を持った女を殺したこともなく、噂に面白おかしく尾ひれがついてしまったそうだ。

 
「……」

 ナリーファは俯いたまま、唇をわななかせた。
 膝で目を瞑っている王の顔を眺めながら、面白い物語を話さなければと思うのに、次々と浮かんでくる思い出に邪魔をされてしまう。

「?」

 再び、深緑の瞳が開いた。話さないのか?と、視線で要求されるのに、声がでない。
 今、頭に浮かぶのは、昨夜のことばかりだ。



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