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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつて久美子かく語りき-5

「……わ、笑い死ぬぅ……!」
タキタはしばらく笑い転げた後、ひいひい息つぎしてから、眼鏡を外して涙を拭いた。
「いや、あなたにこんな才能があるとは知りませんでした」
「ふふん、甘いわ。オマエの知らない村井純子はな、たっくさんいるのだよ」
腕を組んだ姿勢で鼻息荒く私が答えると、タキタは何故か嬉しそうに笑ってから「本当ですね」と言った。
「さて」
タキタは外した眼鏡をかけずに、たたんで卓上に置いた。
「頂いてもよろしいですか?」
急に抱き寄せられ、よろけた拍子にタキタの胸におさまってしまう。彼の冷やりとした指が、私の顎をツイと上向かせ、クチビルを柔らかく包まれる。
「……っ」
急に深くくちづけられ、私はとろけるように甘い息を飲み込んだ。
「ん……」
ようやっと唇が離れた時には、私はもう目がとろんとしてしまっていた。それを確認したタキタは、意地悪そうに笑ってからこう言った。
「特製カレーを」
「!!」
悪魔タキター!!
「くっそぅ……」
砕けそうな腰にカツを入れて立ち上がる。私のブザマな姿を見たタキタは、御満悦そうに目を細めてからのたまった。
「あなたが誘うから、ですよ?」
「やかましィっ!」
ぴしゃりとシカり飛ばし、台所へとどかどか足音を立てて向かった。すると、ウシロから聞き慣れた言葉がする。
「僕もやるよ」
彼はご飯をつぎ、私はカレーをよそう。いつの間にか出来ていた二人のリズムに、私は思わずにんまりとした。
「そういえば」
ご飯の上にふわふわスクランブルエッグをのせながら、タキタが口を開いた。
「今日。茅野さんに『滝田君のこと、好きになるかもしれん』って言われました」
「!」
思わずカレーをかきまわす手が止まる。動揺をサトラレまいとそっと彼を窺うと、ご飯の湯気で眼鏡がマッシロになっていた。
よし、タキタの視界は皆無に近い。
いつもならそれを指摘して笑うところだが、今そんなヨユーは無い。私はほっと胸をなで下ろしてから、タキタの皿にカレーをついだ。
「クミコは、気づいてないンだ」
漫画みたいな眼鏡のまま、タキタが首をひねった。
「何にです?」
二人であべこべの食器を持っていき、私は牛乳を、タキタは水をコップに汲んだ。
イタダキマス、と手を合わせてから、私は途中だった話を始めた。
「アイツは藤川がスキなんだって。絶対」
カレーライスを一口頬張り、至福のひとときを愉しむ。
「藤川って……あのクレープ屋さんの?」
眼鏡を外しているためか、少し目を細めて私を見るタキタ。
それが一瞬、情事の際の表情と重なり、私は胸がどきりとしてすぐさま目を逸らした。それをごまかそうと、カレーとご飯をぐちゃまぜにしながら私は早口に答えた。
「ヤツのそばにいる時のクミコは、いつもと少しチガウんだ」
グラスになみなみと注がれた牛乳を手に取る。ごくりと飲み下すと、少し落ち着いてきた。
ううむ、やはりカレーには牛乳がベストマッチングだ。
初めはタキタに猜疑たる目で見られたもんだが、他人の嗜好にモンクをつける程、野暮な間柄ではない。
「どうした?」
黙ったままの彼に、続きを促す。
「……もしやそれは、所謂『オンナの勘』ってやつですか?」
「左様!村井純子たる女のカンだ」
私がスプーン片手に豪快に笑うと、タキタがぽそりと何やら呟いた。
「他人のことには、敏感なのになあ……」
彼の言葉はヨク聞こえなかったが、良からぬことを言っただろうとは感づいていた。


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