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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつて久美子かく語りき-3

二人でしばらく歩き回り、高そうなジュエリーをガラス越しに覗いたり、オモシロ雑貨なんかを見て回ったりしたけれど、なかなかこれぞというものに出会えなかった。
「茅野さん」
滝田君が小さくため息をついて、私に言った。
「ん?」
「ちょっと、休みませんか」
彼の視線の先には、紅茶専門店。私は二つ返事で中に入った。店内は白を基調としたインテリアで揃えてあり、ふかふかのソファが歩き疲れた私たちを優しく包んでくれた。
サーブされた温かいチャイにシナモンを振りかけると、ふわっと香りが広がり、私は思わず喉を鳴らした。
滝田君はというと、アイスティーのストローで遊びながら、申し訳なさそうな顔をしている。
「すみません。なんだか訳がわからなくなってしまって……」
あらら、相当お疲れのようだ。
「うちらはウィンドウショッピング慣れとるけど、男のコはしんどいじゃろね。大丈夫?」
私がそう尋ねると、滝田君はアイスティーにシロップをたっぷりと入れた。
「女性は好きですもんね。こういうの」
甘味摂取で疲労回復という寸法のようだ。
「ねえ」
わざと、彼の目を見ずに聞いた。
「ジュンのどこが好きなん?」
カランと氷が鳴る。
別に、滝田君を試そうとか思ったわけじゃない。けど、今の私はたぶん、大好きなオモチャを取られて拗ねる子どもと同じ様だろう。
俯いたままの私に、滝田君はこう聞いた。
「茅野さんは?」
はっ、とした。
黙ったままの私に構わず、彼は言った。
「僕は、まだジュンのこと全然知らない。……どこって聞かれたら、彼女の総てに惚れてるって言いたいけど。まだ答えられませんね」
そこまで言うと、滝田君はくるりとストローを回した。カラリカラリと涼しい音がする。
やっぱり、ジュンの選んだヒトだ。
「滝田君」
「ん?」
やっとアイスティーに口をつける滝田君。
よく見ると、彼の瞳はそれと同じくらい明るかった。
「……あたしも、滝田君を好きになっちゃうかもしれん」
「!」
盛大な音を立てて噎せる彼を見て、私は顔が笑っちゃうのを堪えきれなかった。


また何軒か探してみたものの、滝田君のお眼鏡にかなうものが現れなかったため、今日は解散となった。
「今日はありがとうございました」
私のアパートの前で、滝田君がぺこりと頭を下げた。柔らかそうな髪が夕陽を受けて赤く染まっている。
「ええよ、そんなん。ごめんね、送ってもらって」
私も真似てぺこりと会釈をする。滝田君はかすかに笑って、
「茅野さんの言う通り、自分で考えてみます」
と言った。
ジュンへの贈り物なんだから、私が口出すよりも滝田君がちゃんと選んだ方がいい、とさっき喋ったことを言っているらしい。
「うん」
私は部屋へと続く階段を半分駆け上がってから振り向いた。
「滝田君」
「はい?」
私の声が遠いのか、彼は二、三歩進み出た。私は久々に胸一杯に春の空気を吸い込んで、声を張り上げた。
「誕生会、楽しみにしとるけぇね!」
滝田君は微かに目を見開いてから、にっこり笑った。
「はい!」
私は部屋の前まで一気に走った。別れ際の滝田君の顔が頭をぐるぐる巡る。
やば、ほんまに惚れてしまいそう……。


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