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ボールと家族とワールドカップ
【家族 その他小説】

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冴えない中年男の半生-2

中学校に進学すると、迷いもせずにサッカー部に入った。学校の授業以外での毎日の活動は新鮮だった。

「お前、上手いな」

2年生から声を掛けられ、嬉しくなってはにかんだ。

しかしそんな蜜月は長くは続かなかった。

休日練習の時、顧問が居なくなると、3年生はPKで飲料品の賭けをして遊んでいた。当時は2年と3年の格差が大きく、3年生はかなりやんちゃだった。それは別に構わないのだが、その最中に練習を止められ一列に並んで応援をしなければいけなかった。また、賭けの結果、その買い出しを1年生に命じられた事には我慢が出来なかった。

「自分で買いに行け」

ぶつくさ言う私に、一緒に買い出しに行く同級生は宥めたが、意味の無い体育会系の不条理さに性格が馴染めず、一月もせずに入ったクラブを辞めてしまった。

しかし、それは表向きの言い訳一つだったかもしれない。本当は家に1万円以上もするスパイクを買う余裕も無く、同級生達の真新しいスパイクを見るのが辛かったからだ。自分自身に先輩に譲って貰う器用さが無いのを棚に上げて、当時の貧乏な家を恨んだりもした。

クラブを辞める事は両親には言わなかった。後でそれを知った両親も特に何も言わなかった。

退部後、他のクラブに入る事もせず、帰宅部として中学の3年間を過ごした。

高校に入ってから、懲りもせずサッカー部に入った。今度は我慢して続けようと思っていたが、結局この時も続かなかった。

これは私に要因は無く、上級生の暴力沙汰が問題だった。同時期にたばこの不始末で部室にボヤ騒ぎが起こった事が致命的だった。

その結果、入ってから一週間でサッカー部は廃部になってしまった。どうやら縁が無かったようだ。

以降、高校生活はバイトに明け暮れ、ご多分に漏れずバイクに嵌った。バイト仲間や部活をしない同級生とはしゃぐことだけが、十代の青春の一ページとなった。

辛うじて進んだ夜間の大学時代は、昼間働きながら通う学生の身、何かを成し遂げる余裕も無いままで終わった。

社会人となった現在に至るまで、喜びに歓喜する事も、悔しくて咽び泣く事も無く、全く面白味の無い半生を過ごしてしまった。

恋愛は普通に有った。

28歳の時、幾度かの恋愛の末に結ばれたのは、同じ会社の3歳下の事務職の女性だった。会社の行事で普段見ない姿にお互いが惹かれて、直ぐに交際が始まった。

2年の恋愛期間を経て結婚し、そして2年が経って娘の麻衣が生まれた。私は麻衣を可愛がり、そんな麻衣も私にとてもなついていた。

麻衣が小学校に入学すると、野球のグローブと軟式ボールを買った。

「いいとは思うけど、どうしてグローブなの?」

「女の子でも、キャッチボールくらいしないと、運動音痴になるからね」

疑問を口にする妻に対して、自分が苦手だった事を隠して必要性を説いた。

キャッチボールをして、子供向けの番組を一緒に見たり、季節ごとの子供向け映画を一緒に見にも行った。

良好な親子関係を気付いていると思っていた。麻衣が成長するにつれても、何を考え、何を望んでいるのかは、ある程度は理解出来ると思っていた。

それが中学校に入学して2年も経つと、ご多分に漏れずにその関係性は一変した。丁度その頃、仕事面での多忙が重なり、家庭を省みる機会が少なくなった事が拍車を掛けた。

朝晩の時間帯が異なり、顔を会わす機会が少なくなった。麻衣が敢えて時間をずらしている雰囲気もあったので『それならば』と、こちらも意固地になって干渉しようとはしなかった。

「もっと家に関心を持って」

見かねた妻に言われた言葉が心に残り、たまに麻衣と顔を会わした時には、言わずでもいいような小言が先に出てしまい、ますます関係性は悪くなる一方だった。

妻のため息が増え、そのまま時が流れた。

「あの子、サッカー部に入ったのよ」

「えっ?」

春に高校に入学した娘が、サッカー部に入った事を妻から聞かされた。妻にも言ってない過去の負い目、それをなぞられた思いがして、一瞬ドキリとした。

「そうか、サッカー部に…。でもどうして?」

中学時代の麻衣はバレーボールをやっていたので、その転向に驚いた。出来れば私の様に中途半端にしないで一つの事を続けて欲しかった。

妻から詳細を聞けば、どうやら共に進学した友人に誘われたらしいとの事。

その妻とのやり取りの最中に麻衣が居間に入ってきた。

「サッカー部に入ったって?」

「う、うん」

何か言われるのかと身構えた麻衣が、ぎこちなく頷いた。

ことクラブ活動に関する事は、娘で有ってもとやかく言う資格は私には無い。

「頑張れよ」

それだけをアッサリと言った私に、麻衣は驚いたようだが、直ぐにそそくさと自分の部屋に戻っていった。



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