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ボールと家族とワールドカップ
【家族 その他小説】

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冴えない中年男の半生-1

【冴えない中年男の半生】

社会人に成り立ての頃、178cm65kgとスマートで華奢な体は、その後の加齢にストレスが程良く加味され、いつしか80kgを大幅に超えてしまい、以降は増すばかりでその勢いは止まらない。

それが全体的に均等に膨らむならば年相応の貫録も出ていいと思うが、貧相な骨格の中で腹周りに集中している様はバランスを欠いた。浴室の鏡に映る醜い体に目を伏せるばかりだ。

その程度は中年期になれば誰にでも訪れるから、見た目の醜さは目をつぶって諦めるしかない。幸いにして頭皮は薄毛の母系では無く、父系の遺伝を引いていたので、白髪のケアに手間が掛る事は却ってありがたかった。

今更見た目を気にしても仕方が無いが、毎年の人間ドックに出てくる数値は、無視する訳にはいかない。

検査の結果が病院から直接自宅に届くため、私の状態は妻の目に触れる。その結果、心配症の妻の表情が曇るのは毎度の事だった。

「勝手に見るなよ」

毎回そう釘を刺すが、私の言葉が守られた事はない。

「何かスポーツでもしないと…」

体を動かすことの好きな妻は、週2回ママさんバレーで汗を流していた。だから折に触れて私にも体を動かせと勧めるが、そうそう時間を設けて運動なんて出来る物ではない。

妻は時折スポーツジムの新聞広告を目の前に突き出すが、ジム通いはガラでは無い。

「手っ取り早く家の近所を走ったら」

それはジム以上にピンとこなかった。

とにかく今までの半生で、運動系の経験は皆無だった。古くからの友人に一緒に飲みに行く相手は居るが、一緒にスポーツをしようと誘う仲間は居なかった。

私たち世代で、スポーツと言えば野球やソフトボールだった。プロ野球のナイター中継は夜の9時に打ち切られる事無く、子供達は好みのチームのキャップ帽を被り、家には大抵グローブとバットが有った。

しかし少年時代の私は、そんな人気の野球が凄く苦手で嫌いだった。

体育の授業にソフトボールがよくあり、放課後に子供達が校庭に集まれば大概ソフトボールが始まった。

それが苦手な私は、外野を守ればフライの落下点の予測がつかず、前後にフラフラとボールを追ってエラーを連発し、打席に入ればこれまたフラフラと情けないスイングをしていた。

「酔っ払いみたい」

いつしかその姿を揶揄された渾名が付けられた。

「あ〜あ、次は酔っ払いかあ」

チームがチャンスの時、私に打順が回るとそんな声が聞こえてきた。

例え他に勝る部分が有っても、一つ極端に劣るところが有れば、そこは攻撃される。普段は仲良く遊ぶ友人で有ってもそれは例外ではない。子供とは残酷なものだ。

マット運動や跳び箱、鉄棒、夏になれば水泳と、いつもお手本として先生から指名されていたから、運動神経はそんなに悪くは無かったと思う。なのに何故か野球だけは例外だった。

そんなわけで、何かと揶揄されるソフトボールの時間は苦痛だったが、それ以外の体育の授業は好きだった。とりわけ一番好んだのはサッカーの授業だ。

体力測定の数値は、反復横飛びとジャンプ力は平均値より抜きんでていた。横に素早く動く運動能力に長けていたからだと思うがドリブルは得意だった。

性格なのか、シュートでゴールを奪うより、ドリブルで相手を抜く事を好んだ。ワザと仕掛けて相手を抜いて喜んでいた。

小学校行事にクラス対抗のサッカー大会があった。クラスの男子は21人。サッカーは11人制なので、A、Bと2チームに分けると、どちらかのチームが1人不足する。ドリブルが得意な私がA、Bの両チームを掛け持つ事は直ぐに決まった。

今で言うトップ下に陣取り、ドリブルで抜いてそのままゴールを何度か決めた。この時ばかりは『酔っ払い』の汚名は返上していた。

だが、それだけだった。所詮小学校の授業以上の事はない。幾ら好きでやりたいと言っても、近くにサッカークラブが有るわけでは無く、仮に有ったとしてもこの当時の我が家に、そこに通うほどの金銭的余裕は無かった。


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