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淫霊記
【ホラー 官能小説】

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見えざる凌辱者-7

本当は、由紀は恵美を手に入れたい。
それができないのなら同じ男に、それも言いなりにできる男を利用して快楽を分かち合いたいと考えた。
そしてその方法がいずれ二人とも廃人となる危険があると知らずに行っている。
呪詛の術が発動しているので、由紀と恵美にはもう止めることはできない。
「これも、神の思し召しでしょう」
ジュリアはそう言った。
「ところで、レイ、今夜はワインを飲むから、あとは頼んだわね」
「禁酒してたんじゃなかったっけ」
「ひさしぶりに力を使ったんだもの。少しぐらいなら神もお許しになるんじゃないかしら」
ジュリアは滝に打たれる禊の代わりに風呂のお湯に祈りを捧げて、聖水風呂にした。
恵美のお清めは完了している。
「ワインを飲ませてくれないなら、レイもこれからは自分で御札を作りなさい」
本来なら徐霊は山奥の霊場で行うか、教会で悪魔払いができる神父が時間をかけて行う。
それを郊外の古寺で急ぎで行えるのは、ジュリアの協力なおかげである。
「オヤジがいればなぁ」
「お父様に頼ってばかりでは、私たちが天に召されたあとはどうするのですか?」
「結婚して団地妻になる!」
レイがそう言うと「食事にしましょう」とジュリアに話を流された。
テーブルの上のエビの天ぷらをつまみ食いして、レイがもぐもぐしながら、恵美の泊まる空き部屋に呼びに行った。
ジュリアは料理上手だ。
彼氏の浮気、浮気相手は彼氏の実の姉。
恵美はあまり食欲がない。
「父と子と精霊の御名においてアーメン」
「いただきます!」
「……いただきます」
三人が食事を始めた。
「恵美さんもワインを飲みますか?」
ジュリアがワイングラスを手にして言った。
「このワイングラス、きれいでしょ?」
レイがまたか、という顔をした。
バカラのコンコルドがジュリアのお気に入りで、客が来ると、気に入った相手には酒をすすめる。
「きれいで、かっこいいです」
恵美が素直に感想を言うと、ジュリアがうれしそうにニコッと笑う。
ライトボディ は渋みやコクが控えめで、フレッシュな味わいのワイン。
ミディアムボディ は渋みやコクがほどよく、色の濃さも中程度のワイン。
フルボディ は渋みやアルコール分が十分に感じられる、しっかりとした味わいのワイン。
ソムリエのように恵美にワインを飲ませ「どれが一番お口に合うかしら?」とジュリアは恵美を酔わしていく。
赤ワインの次は白ワインをグラスを別のものにかえてさらに飲まそうとしている。
「ジュリア、飲ませすぎ」
レイがやばいと思い声をかけるが、ジュリアはウインクして、さらに飲ませた。
すっかり恵美が酔いつぶれる。
「眠っている状態や満員電車でぼんやりしている状態で呪いの発作が発動したのよね。なら、泥酔している状態ならどうかしら」
ジュリアはそう言うと、レイの肩を軽くぽんと叩くと、食事のあとかたづけをあまり上手くない鼻唄の讃美歌をハミングしながら始める。
レイは酔いつぶれた恵美を下着姿にして、本堂に寝かせる。レイは巫女装束に着替えていた。
護摩檀に火を入れ、護摩木をくべる。
レイは経文ではなく呪文を詠唱する。
恵美を下着姿にしたのはジュリアの提案である。
本当は裸のほうが術がかけやすい、とジュリアは言った。だが、それはレイが却下した。
意識には顕在意識と潜在意識がある。
普段、いろいろなものを認識したり考えたりしているのは顕在意識で、それは5%未満だ。
残りの95%は潜在意識である。
同調とは顕在意識が同じ情報を共有している状態といえる。なぜそうしたことが起きるのかといえば、潜在意識は個人単位ではなく生きている人間の意識の膨大な意識の集合だからだ。
他人の顕在意識は潜在意識でつながっている。
催眠暗示は潜在意識に呼びかけて、顕在意識に思い込ませる技術だが、テレパシーや読心術などは潜在意識を通じて顕在意識から情報を読み取っている。
快感を含む感覚の共感は潜在意識でつながっている相手に的確に情報を交換しあっているのだ。
レイは護摩の炎を見つめて呪文を詠唱しながら、潜在意識を認識する作業から始めた。
顕在している世界を潜在の世界から変化させる。
それが法術である。
それには顕在意識から潜在意識を認識して自我を保ち続けなければならない。
呪詛の法術の危険とは潜在の世界の力をむやみに使い続けていることで、潜在意識に顕在意識が取り込まれ自我を喪失することになる危険である。
人は肉体を失っても自我を潜在意識に逃がしていれば幽霊として消失をまぬがれる。
ただし、それは不完全な死である。
肉体が失われると老いることはない。ただし、顕在意識の自我に刻まれた苦痛や強い感情にとらわれ、潜在の世界に取り込まれるまでそれが続くのだ。
潜在の世界に取り込まれることで、自我が失われて死ぬことができる。
炎が揺らめく。
レイの呪文の詠唱が止まった。
自分の顕在意識から潜在意識の中で恵美と由紀の顕在意識につながる潜在意識をレイは探り出そうとしているのである。
レイに任せるとは言ったが、ジュリアは心配して本堂に足音を忍ばせてやって来た。
普段着ではなく修道服を身にまとっている。
ジュリアは恵美の胸の上に呪符を一枚そっと置いた。そして数珠を手にしたまま護摩檀の前で、半跏趺座の姿勢で目を閉じて瞑想中のレイの背後に立ち、レイの両肩にそっと手を乗せた。
ジュリアは両手から気功でいうところの発勁でレイに念のエネルギーを流し込む。
(神よ、あわれな子羊をお許し下さい)
ジュリアは本堂から険しい表情で、敵を狩るために今夜も出かけていく。

小鬼の淫鬼五匹に責められた男は、レイの残した呪符の髪を握りしめて工事現場のビルで意識を失った。
肉体はそこにありながら潜在の世界に帰った鬼よりも強大なものに自我をゆだねた。
男は悪魔に魂を売った。
自分の名前すらもうわからない。


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