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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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再び-2

 亜紀と遼は、マユミに案内されてシンプソン家の広いバスルームに入っていった。
「先に入りなよ」遼が躊躇いがちに言った。
「う、うん……」亜紀は小さく返事をして遼に背を向け、ずぶ濡れになったスーツを脱ぎ、ブラウスのボタンを一つずつ外した。遼も彼女に背を向け、赤い顔をして、濡れて固く締まったネクタイを手こずりながらやっとほどき終わると、制服のボタンに手を掛けた。
 バスマットの上に置かれた脱衣籠には、亜紀の濡れた服が軽くたたまれて入っていた。遼は、それを見下ろして安心したようにほっとため息をついた。

 遼が浴室のドアを開けた時、立ちこめた湯気の奥に亜紀の白い肌が見えた。遼はごくりと唾を飲み込み、浴室に足を踏み入れ、後ろ手にドアを閉めた。
 亜紀はシャワーを浴びていた。弾ける水音が妙に心地よく遼の耳をくすぐった。

「身体、冷えてるだろ? 早くお湯に浸かりなよ」遼が言った。
「え?」亜紀は顔を振り向かせた。「何? よく聞こえなかった」
 遼は亜紀に近づき、恐る恐る背中から腕を回して、耳元で囁くように言った。「早く温まりなよ、って言ったんだよ」
 亜紀は顔を上気させてコクンとうなずくと、身体を遼に向けた。そして無言のまま再び彼の唇を求めた。遼もそれに応え、亜紀の口を柔らかく慈しんだ。

 二人の身体にシャワーの湯が弾け、浴室にはさらに濃い湯気が充満した。


 リビングの大きな座卓に向かって、マユミと一人の女性警察官が座ってホットチョコレートのカップを手にしていた。
「あ、」遼はタオルで頭を拭きながら思わず立ち止まった。「日向巡査、来てたんですね」
 その女性警察官はにこにこ笑いながら小さく頭を下げた。
「ようやくハッピーエンド。ですね? 秋月巡査長」

 遼は照れたようにタオル越しに頭を掻いた。

 バスルームから遅れて出てきた亜紀は、ケネス夫婦の娘、真雪から借りたクリーム色のスウェットを着ていた。
「あ……」亜紀はテーブルの女性警察官に目をやった途端、その場に立ちすくんだ。
 先に座っていた遼が声を掛けた。「ここにおいでよ、亜紀」
「う、うん」
 亜紀は恥ずかしげに胸を手で押さえながら遼の横にちょこんと座った。
「紹介するよ、この人は僕の後輩、新人警察官の日向夏輝巡査」
「よろしくお願いします」
 夏輝は丁寧に頭を下げた。
「こっちが、僕の、えーっと……」遼は顔を赤らめて、少し声を落として言った。「ぼ、僕のフィアンセ、薄野亜紀」
「えっ?」亜紀はびっくりして顔を上げた。「フィ、フィアンセ?」

 遼は亜紀の顔を覗き込んだ。「だめかな……」
 亜紀の目に涙が浮かんだ。「遼……」

 広いリビングの、二階への階段下に設けられているキッチンスペースから、店の主ケネスが二つのカップを運んできて、遼と亜紀の前に置いた。
「飲んだって。特製のホットチョコレートやで」
「ありがとうございます」震える声で亜紀が言った。
「人前で泣くなよ、みっともないだろ」遼は小声で囁いた。

 ケネスが言った。「ナッキーも、今回はよう働いたな。立派な警察官になっとるやないか」
「おっちゃん、本気で言ってる?」
「なんやねん。たまにはわいの言うことも素直に受け取って喜んだらどやねん」
 ケネスは笑いながら妻マユミの横に座った。

 亜紀が上目遣いでちらりと自分のことを見たのに気づいた夏輝は、微笑みながら言った。「亜紀さん、あたし秋月さんにはとってもお世話になったんです。あ、今もですけど」
「そ、そうですか……」

「でも、それだけですよ」
「『それだけ』?」ケネスが言った。「何やの、その妙な言い方」
「誤解されたら困るな、って思って」
「誤解?」
「だって、あたし新人研修中は秋月さんが実習指導員だったから、二人でいることが多くて、今も結構誤解されること、あるんだ」
「そうなんか?」
「うん。まあ、お似合いって思われるのは悪い気はしないけどね」

 秋月は無言でまた頭を掻いた。

「でも、本当にご心配なく、亜紀さん」
「もしかして疑ってらしたの? 亜紀さん」マユミが言った。
 亜紀は小さな声で言った。「ちょ、ちょっとだけ……」
「心配いらんわ、亜紀さん」ケネスが大きな声で言った。「ナッキーにはすでに高校時分からなんべんもくっつき合った彼氏がおる」
「おっちゃん!」夏輝が赤い顔をして叫んだ。「くっつき合ったなんて言わなくていいのっ!」
「もう、ラブラブなんやで」
「そうなんですね」亜紀はようやく微笑んだ。


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