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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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疑心暗鬼-1

 週明けの月曜日。1月12日。朝から雲一つないすがすがしい晴天だった。

 朝から亜紀が仕事に出かけた後、一人部屋に残った拓海は、掃き出し窓から、浴室の窓、ありとあらゆる窓を開け、腕まくりをしながら威勢良く言った。「よしっ! 居候になってるお礼に徹底的に掃除してやっかな」
 拓海はそれから床に掃除機をかけ、ぞうきんでベランダの手すりを拭き、ベッドから寝具をはがし、シーツと枕カバーを洗濯機にぶち込んだ後、毛布と敷き布団をベランダに広げた。
 浴室のバスタブを洗剤を泡立ててごしごしと洗い、洗面所の鏡を拭き上げ、洗濯の終わったシーツやタオルを取り出してベランダの物干し一杯に広げて干した後、彼女は部屋の真ん中に立ってぐるりと周りを見回した。「こんなもんかな」

 拓海は何気なく部屋の隅にある木製ラックの上に立ててあるフォトスタンドに目をやった。
「家族写真……。つっても、だいぶ前のやつだな」
 彼女がそれを手に取ってしみじみ眺めていた時、するりと一枚の写真が床に落ちた。
「あれ?」拓海は写真を見直した。家族写真はそのままだ。「この写真の裏にもう一枚あったのか」

 拓海は落ちた写真を拾い上げた。
「これは……」
 雪景色の中、亜紀と一人の男性が肩を抱き合っている写真だった。二人ともおそろいのダウンジャケットを着て、身を縮めて寒そうに、しかしひどく幸せそうに微笑んで、頬を寄せ合っている。
「ここ、小樽運河だな……。これが、元彼?」
 拓海は、その写真を元通り、家族写真の裏に差し込むと、フォトスタンドを元あった場所に立て直した。


 交番の遼のデスクに夏輝が二つの湯飲みを持って近づいた。そして黙ってほおづえをついたままの遼に背後から声を掛けた。
「秋月巡査長」
 遼は少し驚いたように顔を上げた。
「え? あ、日向巡査」
 夏輝は彼の前に湯飲みを置いた。
「あ、どうもありがとう」
「今日は定時に上がれるんでしょう?」
「そ、そうだね……」

 夏輝は秋月の目を見つめた。彼は落ち着かないように目を泳がせた。

「もし良かったら、帰りにシンチョコにご一緒していただけませんか?」
「え? シンチョコに?」
「ご相談したいことがあって……」
「ぼ、僕に?」
「はい」夏輝は微笑んだ。
「わかりました」


 夕方6時半。夏輝と遼は連れだって『シンチョコ』を訪ね、喫茶コーナーの一つのテーブルに向かい合って座った。
「ナッキーやないか」店主のケネスが水を運んできた。「今日は定時上がりか?」
「うん。昨日休日出勤だったからね」
「遼君も一緒なんやな。なんかの相談か? ナッキー」
「うん。ちょっとね。コーヒーでいいですか? 秋月さん」
「え? あ、うん。コーヒーで」
「まいどおおきに」ケネスはテーブルを離れた。

「秋月さん」夏輝が穏やかな顔を前に座った上司に向けた。「あたしでよかったら、悩みを聞いて差し上げます」
「えっ?!」遼は驚いて夏輝の顔を見た。「貴女が僕に相談があるんじゃ……」
「だって、見ていられないんですもの。秋月さん、昨日のパトロールの後から、人が違ったように暗い顔して……。いつもの秋月巡査長でなくなっちゃってます」
「そ、そうなのかな……」
「何かあったんでしょう?」

 遼はかすかにうなずいた。

 ケネスがコーヒーカップ二客と小さなカフェオレ色の小皿に載せられた四個のチョコレートを運んできてテーブルに載せた。そして何も言わず、にこにこ笑いながら店の奥に消えた。

「あたしが以前、秋月さんから元気づけてもらったお礼がしたいんです」
「お礼? 僕、何かしましたか?」遼は少し寂しそうに笑った。
「夏に。あたしが落ち込んでいるのを慰めて下さったじゃないですか」夏輝はにっこりと笑った。
「あれは、別に……」遼は照れたように頭を掻いた。

「秋月さんが今月結婚する予定だ、ってお伺いしたのは去年の秋。でも、今年になっていきなりその話が消えてしまいましたよね。あたしびっくりしました」
 遼はますますうつむいて申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい、気を遣わせてしまいましたね……」
「すごくプライベートなことでしょうから、あたし根掘り葉掘りお訊きするわけにはいきませんけど、小さなことでもいいから何か貴男のお役に立てれば、って思って……」
「本当にごめんなさい」
「あたしこそ差し出がましくてごめんなさい」
「い、いえ、貴女が謝ることはありません」


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