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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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一枚足りない!-3


***

 黄色レンガの敷かれた宿場街は、薄曇りでもあいかわらずの賑わいだった。
 門をくぐるとすぐに目に付くのは、水瓶を肩に担いだ女神像の飾られた噴水だ。
 ここは街の代表的な待ち合わせ場所になっており、円形の石縁には人待ち顔の男女が大勢腰掛けて、辺りを見渡していた。

 アーウェンは噴水の前を通りすぎ、新鮮な食物を満載にした市場を、足早に駆け抜ける。
 商店街の店は、やっと開店の札をかけはじめた頃合で、アーウェンが鈴猫屋にたどり着くと、ちょうどクロッカスは店先の花壇に水をやっている所だった。


「―― なんで、ラクシュに教えちゃダメなんだ?」

 店に飛び込むなり、ラクシュに討伐事件の記事を見せるなと要求したアーウェンに、クロッカスが思いっきり不審そうな視線を向けた。

「はっ……はぁ……なんでも、です」

 アーウェンは大きく肩で何度か息をして、やっと答えた。
 家から街まで全力で駆け続けてきたせいで額には汗が光り、心臓は激しく鼓動している。
 木製のカウンターに乗っていた新聞をギロリと睨み、忌々しい紙束を掴もうとしたが、クロッカスの手が一瞬早くそれを取り上げた。

「っ!」

 必死で新聞を奪い取ろうとしても、九尾猫の腕はしなやかに動き、掴もうとした場所から、幻のように移動してしまう。

「クロッカスさん! 渡してくださいっ!」

「嫌だね。お前、破くだろ」

「だって、ラクシュさんに見せる気でしょう!」

「俺が自分で買った新聞を、誰に見せようと勝手だろうが。それなりの理由があるなら、止めてやるけどな?」

「だ、だから、それはちょっと……っ!」

 こんなやりとりをしながら、店中を飛び回る。
 単純な腕力なら負けるはずもないが、九尾猫は人狼よりもはるかにすばやい。
 おまけにアーウェンは早朝から精神的にも肉体的にも疲れきっており、圧倒的に不利だった。

 しまいに息を切らしながら壁のネジマキ時計に視線をやれば、そろそろラクシュが街に着いてしまう頃だ。

「くぅ……わかりました。その代わり、絶対に内緒ですからね!」

「お、ようやく白状する気になったか」

 天井梁に飛び上がっていたクロッカスは、アーウェンを眺め下ろして片手の新聞を振る。

「壊滅した吸血鬼の根城は、ラクシュさんの出身地なんです……あまり良い思い出は無かったようですけど」

 アーウェンが当たり障りのない箇所を口にすると、クロッカスは梁の上で眉を潜めた。

「もしかして、同族の血を吸うから追い出されたってトコか?」

「ええ、まぁ。でも、さすがに壊滅なんて知ったら悲しむと思って……」

「なるほど。ラクシュは吸血鬼にしちゃ、妙にお人よしだからなぁ」

 中年の九尾猫は、アーウェンをチロリと眺め降ろして、きちんと整えた短い顎先のひげを撫でて溜め息をつく。

「ふぅん。それで人狼ボウヤは、必死になって隠してるのか」

 そしてクロッカスは音もなく梁から飛び降りると、カウンター裏の引き出しから私物の魔道具を取り出した。
 赤い鉱石を組み込んだブレスレット型のそれを手首にはめて、新聞紙の一枚目だけを握り締める。
 真紅の炎が吹き上がり、見る見るうちに新聞紙を焼き尽くした。

「あちっ、ち」

 クロッカスは小さな悲鳴をあげて、手から消し炭をパラパラと払い落とす。それから壁際の箒とチリトリを取って床を丁寧に掃いた。

「……ありがとうございます」

 拍子抜けした気分でアーウェンが呟くと、床を綺麗にし終わったクロッカスが、肩越しに振り返った。
 少し、呆れたような顔だった。

「まったくお前を見てると、失敗だらけの若かりし頃を思い出す。おじさん、黒歴史を見せつけられてる気分で、恥ずかしいったらないぜ。勘弁してくれ」

「な!?」

「こういうのは、他人が説教しても無駄だからな……せいぜい後で、自分の勝手さを反省しろ」

「……どういう意味です?」

 目を見開くアーウェンの頭を、クロッカスは丸めた残りの新聞紙でポンポンと叩いた。

「ほら、どうせラクシュとどっかで待ち合わせしてんだろ? 早く連れてきてくれよ」

「は、はい」


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