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鳥飼いの復讐者
【ファンタジー 官能小説】

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復讐やめますか? それとも人間やめますか?-2


 王の傍らに立つ姫は、絹の扇の影で、そっと顔をしかめた。
 汚臭に吐き気を催したのもあるが、この生意気な男が不愉快だった。

 いくら伝説の吸血鬼を退治したとはいえ、所詮は男。宝石姫と称えられる美しい自分が微笑みかければ、途端に相好を崩すと思っていた。
 それを見て、青年の飼っているハーピー少女がどんなに悔しがるか、想像しただけでも愉快だった。

 ハーピーは生まれて最初に見た相手へ、強烈な恋心を刷り込まれる魔物だ。
 そしてこのハーピー少女が最初に見たのは、主人である青年だと明らかだ。

 無愛想な青年は、自分のハーピー少女にも素っ気無かったが、少女のほうは滑稽なほど、彼を夢中で追い掛け回していた。

 しかし、姫が城に滞在している青年にいくら甘く誘い掛けても、迷惑そうにかわされてしまった。
  幾多の恋人を軽々と破局させてきた姫にとって、耐え難い屈辱だった。おまけにハーピー少女は、姫になびかぬ青年を見てニヤニヤしているときた。
 あの露出狂を鞭で引っぱたいてやりたいと、どれほど思ったか!

 姫が密かに眉を吊り上げている間にも、授与式は粛々と進んでいく。

「ごほっ……ここに、我が国を吸血鬼の脅威から救ったことを……」

 国王が悪臭に咳き込みながら、青年を称える言葉を述べている途中だった。

「お待ちください」

 突然、青年がスクリと立ち上がった。続いてハーピー少女も立ち上がる、
 広場の騎士や民衆はどよめき、国王は目を見開いた。
 王の言葉を遮り、途中で立ち上がるなど、無礼にも程がある。

「私はまだ、この国を吸血鬼から完全には救えておりません」

 ざわめく広場の中、青年の低めな声が響いた。

「お、おお、そうか……殊勝なことを申すの。確かに、まだ逃げた吸血鬼も多いそうだ」

 動揺を声に滲ませ、王は口元に愛想笑いを浮かべた。
 国を救った英雄に違いなくとも、どうもこの男は苦手だった。どこか暗い夕陽色の双眸は、まるで白刃を喉元に当てられているような気がする。

「お主と飼い鳥が、これからも我が国を守ることを、期待しておるぞ」

 そこまで言い終えた時、王の下腹部に激痛が走った。青年が流れるように自然な動作で鞘から剣を抜き、王の腹を正面から突いたのだ。
 王の丸い顔に張りついた笑みが一瞬で青ざめ、続いて大きく開いた口から絶叫と赤い血がほとばしる。

「きさ……っ!!」

 護衛の騎士たちが荒げた声を、風切り音が遮った。
 敏捷という言葉をはるかに超えた速度で、ハーピー少女が身を翻す。彼女の手甲から伸びた刃が、護衛たちの眼球を次々と真横に切り裂く。
 盲目となった騎士たちは剣を取り落とし、悲鳴をあげて顔を抑え、のたうちまわった。

 祝いに浮かれていた広場は、一瞬で混乱と血臭と恐怖の渦に叩き込まれた。



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