投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

鳥飼いの復讐者
【ファンタジー 官能小説】

鳥飼いの復讐者の最初へ 鳥飼いの復讐者 7 鳥飼いの復讐者 9 鳥飼いの復讐者の最後へ

復讐やめますか? それとも人間やめますか?-8


 ―― 答えなど、決まっていた。

 奇妙な泉の底で、ディキシスは五年間を過ごした。
 部屋の外も鉱石木にずっと覆われ、複雑に枝分かれした道は、永遠に地の底まで続いているようだった。
 泉の番人は、迷ったら二度と戻れないと警告し、安全な一部だけを教えてくれた。

 不思議なことに、番人の姿は会うたびに違っていた。中身は同じ人物のようなのに、外見は年齢も肌や髪の色も性別さえも、会うたびに違う人間の姿をしている。

 番人はディキシスの身体に何度も手術を施し、人ならざる能力をもつ魔物に対抗できるようにと改造をした。
 不思議な光で壁に映像を映し出し、あらゆる武術を習わせもした。

 最後に、満足のいくまでディキシスを鍛え上げた番人は、漆黒の剣をくれた。
 そして目隠しをした、一人のハーピー少女を連れてきた。

『あげよう。このハーピーも、きみの武器だ。』

『この子が、武器……?』

 鮮やかな極彩色の翼と髪を持つ少女は、目隠しをされたまま不安そうに震えていた。

『そうだ。あらゆる身体能力を引き上げ、闇夜で吸血鬼と戦えるよう、視力の改造もした』

『だって、そんな……!』

 この五年間で、番人のやることは大抵が間違っていないと知っていたが、思わず食ってかかった。
 これからディキシスがやろうとしているのは、とても危険な復讐だ。見ず知らずの少女を巻き込むつもりはない。

 だが、今日は妙齢の女性の姿をしていた番人は、感情のない硬い声で告げる。

『五年間で、判明した。君が一人で望みを果たす確立は、限りなく低い。しかし、彼女を条件に加えれば、飛躍的に確立は上がる』

 ハーピー少女の背後に回った番人が目隠しを外し、黄色の瞳がディキシスを真っ直ぐに見つめた。


 ****


「!!」

 声にならない叫びをあげ、ディキシスは目を覚ました。

「はぁ……は……」

 嫌な汗が全身に噴出し、何度も肩で大きく深呼吸をする。生々しい過去が噴き出た夢の残滓に、心臓は激しく脈打っていた。
 まだ夜明け前で部屋は暗く、隣ではレムナがぐっすりと寝こけている。

(……レムナ)

 彼女を起こさないように、心の中で自分のつけた名前を呼んだ。

 目をあけた彼女は、刷り込み効果でディキシスをたちまち盲愛した。
 彼女は番人から自分の役割を聞いていたらしく、ディキシスの武器になると大張り切りだ。
 それは番人の勝手な判断で、危険な復讐に付き合う義理はないと諭しても、絶対に離れようとしない。

(……レムナ)

 色鮮やかな短い髪をそっと撫で、心の中でもう一度呼ぶ。
 彼女に名前をつけてくれとせがまれて、何日も悩んだあげくに、ようやくつけた名前だ。
 気に入ってくれるかと不安を抱きながら、思い切って『レムナ』と呼ぶと、とても喜んでくれた。
 あんまり嬉しそうな笑顔に、ディキシスまでつい嬉しくなってしまった。
 レムナが刷り込みではなく本当に自分を愛して、自分も彼女を愛していると、錯覚しそうになるほど……。

「う……」

 小さな声と共に、黄色い瞳がパチリと開いた。
 ディキシスは慌てて手を離し、そっぽを向く。自分のシャツを手早く着ると、昨夜、脱ぎ捨てたレムナの魔道具たちをかき集めて渡した。

「早く着けろ。すぐに出発だ」

「うん」

 昨日の一件で、ディキシスとレムナは指名手配犯となっている。隣国との吸収合併が落ち着くまでは、諸外国でも追われるだろう。
 しばらくはおとなしく隠れ暮らすのが一番だが、そうのんびりもしていられない。
 逃げた吸血鬼が近隣諸国に拡散したおかげで、各国で討伐隊が組まれるそうだ。
 討伐隊に先を越され、キルラクルシュの大事な手がかりを殺されてしまっては困る。

「……まだ、半分だ」

 復讐は、まだ半分しか済んでいない。
 血税を吸って肥え太ったダニは潰しても、諸悪の根源はやはり吸血鬼たちで、彼らを率いていたのは、女吸血鬼キルラクルシュだ。

 濡れたようにつや光る闇色の髪をもち、感情の抜け落ちた顔に、胡乱な赤い瞳を淀ませていた吸血鬼を、必ず見つけて殺す。
 それまでは決して立ち止まれない。余計な感情は殺せと、自分に言い聞かせる。

―― 人間でいることよりも、復讐を選んだのだから。

 身支度を終えたディキシスは、壁に立てかけた漆黒の剣を取り、もう一つのかけがえのない大切な『武器』を呼んだ。

「レムナ、行くぞ」

 終


鳥飼いの復讐者の最初へ 鳥飼いの復讐者 7 鳥飼いの復讐者 9 鳥飼いの復讐者の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前