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少女剣客琴音
【歴史物 官能小説】

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指南役選任-1

次の日はとても忙しかった。御前試合で審判役をやった月岡宗信に頼んで桑野松蔵を養子として縁組をして貰い、それから月岡松蔵として多田家に婿入りをした。
そして晴れて多田松蔵となった訳である。
ちょうどあれから3日目筑島候の御前に2人揃って参ると、見慣れぬ武士たちが脇に大勢控えていた。
「良く来たな、多田琴音。3日の期限を守ったな。そこに控えているのが桑野某という者か。」
「今は私の夫となりましたゆえ、多田松蔵と申します。どうか指南役にお引き立てを」
「ほう、そうか。なるほど、婿を取ったのだな。だが、その松蔵とやらが果たしてそちの言う通り腕の立つ剣客かどうかは試さねばならぬが、それで良いか」
「はい、思し召すままに」
「実はそちが破った黒田玄武の師匠が玄武の兄弟子2人とその孫弟子14人と一緒に昨日から来ていたのだよ。
師匠の幻斎が言うには、桜庭道場の高弟9人をそちが倒したのなら、その松蔵はそちより強いのだから14人の弟子と戦っても倒せる筈だと言うのだ。
尤もな話だと思うのだがどうじゃ」
琴音は当惑したが松蔵の方を見た。松蔵は頷いている。そして自分で返事をした。
「恐れながらお殿様、それが一門の方々のお望みであれば拙者お相手仕る。」
「それが真剣での立会いでもか」
「真剣……でございますか?」
「さよう。どうやらこの者たちは玄武の弔い合戦を琴音ではなくお前相手にしたいようじゃ。
もちろん、その方が指南役を辞退するというのなら、ここにいる幻斎が代わりを勤めるという。
辞退せぬというなら14人を斬り倒し、そののち春日幻斎、月形龍鬼、広川白虎の3人と戦うが良い。
その3人とも真剣で立ち会って、生き残った者が指南役となる。
それで良いか」
「御前の庭を血で汚すことになりますが、それでも構いませぬか」
「もちろんじゃ真剣の戦いとはそういうものだからじゃ」
松蔵は襷をかけると大小下げて立ち上がった。
「松蔵殿、大丈夫か」
琴音が話しかけると松蔵は大きく頷いて言った。
「大丈夫だ。これは公の闇討ちのようなものだ。向こうも引くに引けないのだろう。
だがなるべく命は取りたくない」
そう言うと前に出て14人に向かって言った。
「いざ参られい。お相手仕る」
そして2尺7寸の刀を抜いた。
14名の武士達が飛び出して来た。
「きぇぇぇぇぇぇっ」
松蔵は彼らが自分を囲む前に最初の3人を『水流』で斬った。
そして体を激しく回転して自分を囲む輪を飛び出した。『旋風(つむじかぜ)』である。その際1人が斬られた。走り出すと残りの10人が追って来た。
松蔵は急に方向転換して引き返すと追って来た先頭の3人を『破の剣』で斬った。
刀を弾くのと斬るのが1動作で終わったのだ。真剣で斬るとその瞬間ではなく一瞬遅れて血が吹き出る。
松蔵は辛うじて返り血を浴びずに移動してしていた。敵方が陣を作る前に予想もつかぬ方向へ動くのだ。
「いやぁぁぁぁぁ」
7尺も高く飛んだかと思えば囲みの侍達の背後に着地した。
振り返った侍達の刀を弾き飛ばすと更に3人斬った。
そして突風のようにその向こうの群れの中に突っ込んで行った。
「でやぁぁぁぁぁぁぁ」
その突進力は一刀流の得意とする「野分」よりも距離が長く、刀の動かし方もより複雑だった。
なんと3人が刀を撥ね上げられながら斬られた。
これが『疾風(はやて)』である。
最後の1人は受け太刀しながら額を割られて倒れた。
家臣たちが戸板に乗せて斬られた武士たちを運んで行った。
血で汚れた地面に松蔵は立っていた。だが着物は汚れてなかった。
「お相手つかまつる。どなたから?」
「広川白虎と申す。いざ。」
白虎は剣を下段に構えて松蔵の目を睨んだ。そして呼吸を溜めていた。
『来るな』と松蔵は思った。
「でやぁぁぁぁぁ!!」
『水鳥』である。下から突き上げる一刀流の必殺技だ。
松蔵が背後に跳びながら巻き上げると白虎の刀は宙に撥ねられた。
そして喉元に突きつけられた剣先を前に白虎は言った。
「参った」
すると松蔵は月型龍鬼の方を見た。
「参られよ」
龍鬼は鞭のように剣を振り回した。剣は唸りを立てて宙をのたうつ。
「てやぁぁぁ」「とうぅぅ」
気合と共に龍鬼の剣先は蛇の鎌首のように襲い掛かった。
だが松蔵はそれを絡めて真横に飛ばした。
「参った」
松蔵は白虎に剣先を向けて聞いた。
「今の貴殿の使った剣は?」
「金蛇(かなへび)と申す」
龍鬼が下がった後、春日幻斎が最後に出て来た。
「刀を絡め取る妙な剣を使ったが、あれは?」
「無角流の長髪剣と申す」
「非常に扱いづらい剣だ。だがお相手しよう」
「では参られい」
「いざ」
2・3合太刀合わせをしたがその都度長髪剣が絡んで撥ね返そうとするので幻斎は苦戦を強いられた。
すると幻斎は小刀も抜き両手に持った。
「一刀流を名乗って2刀を持たれるとは面妖なり」
「さよう。これこそ『朱雀(すざく)』という我が剣法」
すると幻斎がそのまま跳びあがって空中で翼のように両手の刀を広げた。
次の瞬間小刀を松蔵に向かって投げつけると、大刀で大上段に構えて襲い掛かって来た。
松蔵は瞬間飛んで来た小刀を絡めて撥ね上げた。その小刀は飛び降りて来た幻斎の胸元に刺さり、勝負はついた。
幻斎は膝をついて着地し、2人の弟子が駆け寄り刀を抜いて傷口を縛っていた。
松蔵は筑島候の前に跪き、試合が終わったことを告げた。
「天晴れな腕前よ。そちが最初に打ち負かした14人は先ほど手当てを受けていたが、全員命に別状はないとのことだ。
真剣勝負の中で加減ができるとは見上げた腕前よのう。
そちを当藩の剣術指南役に取り立てようぞ」
「ははぁ」
 


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