〈恥虐の花嫁・銭森春奈〉-21
『ごめんなさいね？私、美津紀ちゃんの事を悪く言っちゃってぇ……』
『構わん、全く構わんよ。グフフ……』
あの台詞がタムルの本心とも知らず、サロトはご機嫌なままでいた。
美津紀を抱き、唇を重ねる……実に仲の良い“関係”だ。
『明日の朝はぁ優愛ちゃんで遊ぼうかしらぁ？寂しいだろうからぁお姉さんと一緒にぃ……ウフッ……私ってぇ優しい人ぉ……』
酔いが回ってか、聞いていて苛つく言い回しに変わってきていた。
タムルは長い髪を掻き上げ、ユラユラと頭を揺らした。
なんとも女性的な振る舞いに、専務の瞳は嫌悪感に曇った。
『……私が見るにぃ奈和って牝はぁ……優愛ちゃんの事が大好きッ！……絶対にレズなのぉ……だってぇ私の顔を見た時にさぁ「貴方って不潔よッ」みたいな目をしたのぉ……』
グダグダに酔っ払い、煽るようにグラスを飲み干すタムルを専務は引き攣った笑顔で見ていた。
(へッ…テメェの気色悪い面ぁ見たら誰でも“引く”っつうの！全くよぉ……)
両手の指を絡めてクネクネと身体を揺らすタムルは、美津紀とは種類の違う精神異常者にしか見えない。
専務はさっさと酔い潰して黙らそうと、グラスにストレートで注いだ。
『あら優しいぃ……だから日本の男って大好きなのぉ……ウヒッ……でも牝の方が…も、もっと好きいぃぃ……』
専務の注いだグラスを啜ると、タムルの揺れは激しくなっていった……とてもではないが、明日は二日酔いで使い物にはならないだろう……。
『奈和がレズとな？では優愛が遊ばれるのを見たら喜ぶのではないか？』
サロトの提案に乗らない訳は無い……優愛と奈和の関係はタムルの読み通りであったし、景子と優愛と奈和の三人同時にとなれば、専務の出番も多いに有り得る。
『景子と優愛となれば……春奈には是非とも見てもらわないと……』
専務は自分の出番を確実にする為、春奈の名前を出し、これまでの経緯を話した……春奈が景子を頼った事を引き金に、優愛と奈和が拉致の対象となり、その責を春奈は死ぬ程に感じている事を……サロトはウンウンと頷き、酔っ払ったタムルの瞳にも輝きが戻った……。
『決まりッ!!これで決まりよぉ!!ムカつく景子をワンワン泣かせて……ウヒヒ……』
『こ、これタムル……何処に行くんじゃ？』
完全に酔っ払ったタムルはフラフラと立ち上がり、千鳥足で部屋から出ていった。
廊下の壁に凭れ、上体を滑らせて歩いていく……その先には、景子を監禁している部屋があった……。