言えなかった「好き」-2
「……らしくないよ」
「え？」
「そんなの、陽介らしくない！ 一人の女に本気になるなんて、陽介らしくない！」
「くるみ……」
「カノジョがいたって他の女とも遊んで、あたしとも割り切った関係続けて、それで今までうまくやって来たじゃない！ たった一人の女のために今までのスタイル変えるようなダサい真似しないでよ！」
理不尽なことを言ってるってわかってる。
だけど、陽介とあたしの間に出来ていた距離を認める余裕なんてまるでないあたしは、なおも陽介のタンクトップを掴んですがろうとしてしまう。
恵ちゃんに本気になるくらいなら、色んな女と遊んでいる方が遥かにいい。
愛されないなら、他の誰も愛さないで欲しい。
陽介しか見えなくなったあたしは、そのまま彼の胸に飛び込んでキスをしようとしたけど。
「もうやめろっ！」
諌めるような強い語調で、陽介はあたしの身体を振り払った。
そしてその弾みで、床に倒れ込んでしまったあたし。
さらには、テーブルの上に置いていたアイスコーヒーの入ったグラスにぶつかって、あたしのカットソーに零れてしまった。
「……冷た」
お腹の辺りに茶色いシミができて、不快な冷たさに眉をしかめた。
「くるみっ、大丈夫か！？」
陽介は、慌ててあたしに駆け寄り身体を起こす。
「……すぐに洗わないとシミになっちまうな」
そして陽介は、側にあったティッシュで汚れをポンポンと一生懸命叩いてくれた。
ホラ、何だかんだ言ったって陽介はあたしに優しいじゃない。
「陽介……」
そんな陽介を見てると、また涙が溢れてくる。
ハラハラ涙を溢すあたしに、ポンポンと頭を撫でる大きな手。
冷酷になりきれない陽介だから、あたしは望みを捨てきれない。
「身体がベトついて気持ち悪いだろ。とにかくシャワー浴びてこい。服は洗っとくけど、シミになったらごめんな」
「……別にいいよ、そんなの」
アイスコーヒーのシミは、きっと消えないだろう、そんな気がした。
いつまでも消えない、あたしの「好き」と同じ。