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ポニーテールを解いてくれ
【制服 官能小説】

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ポニーテールを解いてくれ-4

 翌週の月曜日、朝の人ごみの中に彼女を見つけた時の胸のときめきは一段と熱っぽいものだった。ポニーテールが搖れる。振り返った眼差しがやさしさを送ってくるように感じられた。

(抱かなくてよかった……)
もし劣情にまかせて関係をもっていたら今朝の新鮮な出会いはなかっただろう。肉体にのめり込み、自分を見失ってしまっていたかもしれない。いま、忙しないラッシュの駅の雑踏に愛しい少女の姿を追い求めて、私の心は弾んでいた。

 彼女の名前は聞いていない。こちらの名も明かしていない。それでいい。制服美は清らかだから想像力をかきたてる。制服が柔らかな肉体を包み、一体となって美しさを放つ。イメージするのは私の主観だが、美しい少女が制服をまとったことで、より輝くことに誰も異論はあるまい。

 コートのポケットにはケータイが握られている。彼女からメールはまだこない。こちらからしてみようか。アドレスを交換したんだ。差し支えあるまい。何度か取り出すものの、打てない。

 少女が電車に乗り、私も別の扉から乗り込んだ。乗客の動きが乱れて、間もなく居場所が確保されて電車が動き出す。
 彼女の周りには女性客が多い。ほっとする。男に触れてほしくなかった。
横顔が見えた。髪をまとめた根元には白い小さなリボンがついている。蝶が羽を休めているみたいだ。

 ひと駅の区間は短い。少女は降りてしまう。窓越しに目で追っていく。同じ制服の一団の中でポニーテールが舞った。目が合い、微笑みが見えた。


 一日経ち、二日経ってもメールはこなかった。
朝の微笑みはたしかに私に向けられている。私が見つめていることもわかっているはずだ。
 何度ケータイのメールアドレスを見つめたことだろう。
(待っているのか?……)
私からのメールを待っているのだろうか。
(名も知らぬ美少女……)
彼女とホテルに行った。密室である。
(抱かなくてよかった)という思いが、崩れていく。
(抱いてしまえばよかった……)
あの子の肉体、秘部までもこの目で確認して置けば悶々とすることもなかったようにも思えてくる。あの子の体と一つになれたのだ。……

 いや、そうではない。一度制服を剥ぎ取ったらそこに広がるのは果ての見えない快楽の世界だ。きっと私は狂ってしまう。溺れてしまうに決まっている。
 一人の少女が私の心から片時も離れない。彼女を巡って想いが錯綜する。行ったり来たり、また、登っては下りる。手ごたえをもって把握できるものは何もない。青春時代に想いを寄せながら苦悩した感情にも似ているが、やはりその頃の真っ直ぐな恋情とは異なっている。どこかがねじまがり、屈折しているように思う。

 翌朝のことである。駅の階段を昇っているとケータイが鈍い振動を伝えてきた。
(メールだ……)
『おはよう、おはよう、おはよう。三日分』
慌てて周りを見ると、すぐ後ろに少女が付いていた。

 人の流れのままホームに降り、立ち止まると、彼女はいったん行き過ぎてから戻り、やや間をあけて横に並んだ。
 その間隔は微妙な距離に感じた。連れでもない、見ず知らずともいえない空間である。誰かが割り込むには狭すぎる。
(そんな関係か……)
考えすぎだ。……

 少女は前を向いたままだ。電車がくるまで少し時間がある。私はケータイを取り出し、何か打とうとしたが言葉が浮かばない。仕方なく彼女と同じ内容を送った。
 微かに着信音が聴こえる。
(カバンの中か……)
一瞬、少女の口元が綻んだように見えた。しかし取り出そうとはしない。私からの送信だとわかっているだろう。
(見ないでくれ……)
すぐに切った。
意味のない、とても恥ずかしいことをしたと思えてきた。

 電車が入線してきて、彼女が一歩、足を前に出した。つられて私も動き、すぐに半歩下がった。
 開いた扉に向かう少女の搖れる髪を見つめながら、私は別のドアに乗り込んだ。
溜息が洩れて目を閉じた。
 奥へ奥へと押し込まれていく。発車して満員の乗客が一揺れ、二揺れしないと身動きも取れない。

 動きの流れに乗って吊革につかまり、体勢を整えて落ち着くと、コートが何かに引っ掛かっている。振り向いて、慌てた。少女がぴったり寄り添ってコートに掴まっているようだった。
 熱い緊張が走った。
(いつのまに……)

 カーブに差しかかって彼女の体が心地よくもたれかかってくる。
(ああ、くっついている……)
仄かな芳香は香水なのか、ヘアースプレーか。
(あの髪に顔を埋めたい……)
股間が完全に漲って、身震いするほど体が強張った。

 ひと駅目ではほとんど降りず、さらに混み合う。少女は押し流され、私の腕にしっかりと掴まって人の流れから体をかわした。その手が離れ、
「すいませんでした」
「いえ……」
少女は笑いをこらえているような表情である。

 三つ目の駅で人波が車外で吐き出されていく。揉まれながら少女が遠ざかる。
(また、明日……)
心で呟く。
 また街で会えないだろうか。もし、今度ホテルに行ったら……。
着信の振動が伝わってきて、少女からメールが入っていた。
『以前、私のお尻、触りましたよね』
慌ててポケットに仕舞った。
(からかっているのか?……)
それでもいい。あの子と関わりたい。どんな形でも……。
 初冬の海は凪ぎ、朝日に白く輝いていた。

  


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