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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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第4章 会合-5

 腹の内を見せることなく、私は爽やかな好青年の仮面をかぶる野心家に、淑女の仮面で微笑み返す。社交など、所詮愚かしい騙し合いに過ぎない。
 「ご祝辞、嬉しく思います。そうだ、宜しければ貴方にもご招待を差し上げてよろしいでしょうか。綾小路家の方をお迎えするには粗末な催しですが、友人達もきっと喜びます」
 「そうですね、急な話ですので予定がつくかどうか。考えさせて頂きますわ」
 大したものね、答える彼は本当に喜んでいるように見えるわ。でも、社交辞令はこの辺で十分。そろそろ本題に入りましょう。
 「ところで、引き継ぎから二ヶ月以上経ちましたが、新生徒会の運営は滞りないようですね」
 「ありがとうございます。これもひとえに前会長の培われたシステムが優秀である証、我々はそれを継承したに過ぎません」
 予想通り謙虚な姿勢が返ってくるも、その言葉の端々からは自信の程が窺える。
 「とは言え、校内の問題は起こるべくして起こるもの。新会長の手腕には期待していますが、過信なさらぬよう、お気をつけください」
 「御忠告痛み入ります。学院内の問題に対しては、執行部一丸となって取り組む所存です」
 「頼もしいお言葉ですね。ところで、先日偶然お見かけしましたが、伊集院家との軋轢は解消されましたか?」
 「‥これは、お恥ずかしい」
 照れたような笑みを浮かべるも、それが動揺を隠すものであることは見てとれた。人目のある所での諍いを目撃した以上、下手な言い逃れが通じないことはわかっているでしょう。さぁ、どう出るかしら。いかな言い訳を述べようとも、その中に嘘や矛盾があれば、看破する自信はあるわよ。
 「良い機会です。お尋ねしたいのですが、貴方はこの国の将来をどうお考えですか?」
 見当違いな返答に、私は眉をひそめた。彼は話をすり替えようとしているのかしら。それにしては突拍子もない論題ね。
 「それは質問の答えになっていませんわ」
 話しを逸らさせないため、柔らかくもきっぱりとした語調で言ったのだが、彼は不敵な笑みを浮かべて席を立つや、私の隣、テラス窓の前に立ち、視線を外に向ける。
 「綾小路さん、私は将来、日本を背負って立つ政治家を目指しています」
 いきなり何を言い出すかと思えば、政治家宣言である。それも内閣総理大臣を目指すと言っているつもりかしら。確かに歴代総理大臣の中に鳳学院卒の者は少なくないが、どうやら私の質問を棚上げにして、自己の主張を述べたいらしい。
 「今の日本は病んでいます」
 彼は今までとは違った口調、政治家に良く見られる、落ち着いた深みのある声で話し始める。
 「政局は混迷し、多額の負債は増える一方。経済大国と名を馳せていたのは過去の栄光で、今や国際的な競争力をも失いつつ、衰退の一途を辿っています。また、利己的な思想が蔓延し、社会的な問題も枚挙に暇がありません。かつての誇るべき国民性はどこへ行ったのでしょうか‥」
 随分ありきたりな政治批評ね。生徒会選挙の折、演説を聞いたときにも思ったけど、彼の弁舌は上っ面をなでるだけで、聞き手の心に響くものがない。それにしても、彼は一体何が言いたいのかしら。


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