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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -風邪御用心--1

「…どうしてお前はそんなに健康体なんだ」
元々女にしては幾分低い声だが、今日の竜胆の声は更に低い。
と言うのも、それは彼女が今風邪を引いているせいだった。
彼女の視線の先で、いつもと変わらない様子で寝転がっているのは一紺。
普段なら頭に巻いている手拭を右手で持余しながら、彼は言う。
「どうしてって…何でやろ?」
変わった訛りでもって答えると、一紺はのそりと立ち上がり、気だるそうに壁に寄り掛かっている竜胆の正面で腰を下ろした。
「顔、赤いな。熱でもあるんと…」
言って額に掌を当てる一紺の手を払い、竜胆は言う。
「平気だ」
頑固な性格は、こう言うところが厄介だ。
一紺は眉根を寄せた。
「せやかて、これ以上悪うなったらどないすんねん」
「寝てれば、治る」
彼女は言って軽く咳き込みながら、布団に入った。
一紺も溜息をつき、再び寝転がる。

彼女が風邪を引いた原因は、おそらく、一昨日のせいだ。
どしゃ降りで身体の濡れた二人は、林の中の廃寺で一夜を明かした。
その時に、濡れた着物を纏ったままでは風邪を引く…と着物を脱いだ一紺と竜胆は、なりゆきで身体を重ねる。
まあそれは良いのだが、その後、裸のまま寝てしまった竜胆は見事に風邪を引いた。
一方、一紺は至って元気であるのだが。

覇気もなければ、食欲もない。
心配な一紺であったが、彼女が大丈夫の一点張りなのでどうしようもない。
取り敢えずは症状が悪化しないように祈りつつ眠るばかりだ。
だが、異変は思ったよりも早く起こった。

苦しげな息遣い。
一紺がそれに気付いて起き出した。
「竜胆?」
彼女の名を呼ぶが、返事はない。
「竜胆」
すぐさま傍らで眠る彼女の顔を覗き込む。
竜胆は、苦しげに顔を顰めていた。
「おい、竜胆?苦しい?どっか痛いんか?」
「…膝」
それだけ、竜胆は答えた。
一紺は布団を捲り、くの字になっている竜胆の足を伸ばす。
その膝に触れ、一紺は彼女に問うた。
「痛い?」
竜胆は頷く。
おそらくは、熱のせい。発熱による、間接痛だろう。
一紺は膝を軽く揉んでやった。
少し上体を起こして、竜胆は赤らんだ顔を歪める。
「…身体が、痛い」
「そら、熱のせいや。こうしてると、幾分楽か?」
「…うん…」
小さく竜胆は頷いた。
その仕草が妙に可愛らしくて、一紺は不謹慎にも思わず笑んでしまう。
(あ、あかん)
首を小さく振って、竜胆の痛みを精一杯和らげるように優しく揉んでやる。

しかし、一度意識してしまうとどうも駄目で。
荒い息を吐く竜胆の上気した顔や、乾いた唇、肌蹴た着物。
加えてその肌蹴た着物の裾から覗く足が、何とも淫靡だと感じてしまう。
(阿呆!んなこと考え…)
「…ん」
微かな呻き。額に浮かんだ汗が、流れた。
「ッ」
一瞬理性が飛びそうになる。


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