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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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第2章 疑惑-7

 「つまり今までの信念を曲げ、急に別の主義を採用する。そんな経験はおありでしょうか?」
 「‥そうね、あるわよ」
 「それはどういった場合ですか?」
 そう聞くと、桜井先生は口元を綻ばせ、遠くの空に目を向ける。
 「そっか、私が悩んでいたのも、貴方と同じくらいの時だったかな‥」
 昔話になるけどいいかしら、と前置きして先生は話し始める。
 「実は先生ね、学生の頃は法学部に進んで、法曹界を目指すつもりでいたのよ。鳳の教育理念にもあるけど、日本の将来を担う一翼になりたいと考えていたの。でも、ある時疑問を抱いたの。はたして弁護士や裁判官になることが、一体どれほどの社会貢献につながるのだろうって。教師と言う選択を思いついたのはそんな時よ。それこそ天啓のように閃いたわ」
 思いがけぬ話であったが、私は意外な気持ちで聞いていた。教育熱心な様子を見るに、教職一筋に来たと思っていたが、違っていたようね。しかし、内心ちょっと溜め息。どうやら私は進路で悩んでいると思われたみたい。なるほど、確かに三年生の二学期と言う時期を考えれば、無理からぬ発想であるが、残念ながら見当違いも甚だしい。そもそも綾小路のレールを歩く私に、進路を選ぶという選択肢は最初から存在しない。
 「キャリアって出身大学で見られることが多いけど、政界でも財界でも、実質日本を動かしているリーダーの多くは、ここ鳳学院の出身なのよ。ならばこの学院で教職に就き、日本の未来のリーダーを育てる一助となるのはどうか。その考えは私の進路を変更させる大きな魅力に富んでいたわ」
 私の思いを知る由もなく先生の話は続くが、そのどこか生き生きとした表情には惹きつけられた。薫の心変りの参考になりそうな話ではなかったが、少し興味をひかれるのを覚える。
 「急に教師を目指すと言い出した時はね、周りから、特に両親から反対されたけど、今はわかってくれてると思う。それにこの道を選んだことを私は後悔してないわよ」
 私と目を合わせ、先生はにっこりほほ笑んでみせる。その瞳の奥には、強い意志の輝きを感じさせるものがあり、思わずドキリとさせられる。温和なイメージがあったが、強い信念を秘めているようね。
 「傍目には私が突然主義を変えたと映ったでしょうね。でも人生の転機がどこで訪れるかなんて、誰にもわからない。悩むということは、まだ考える余地があるということよ。納得がいかないなら、とことん考えたり調べたりすることね、そうすれば新たな道が見えてくることもあるわ」
 正直期待していた内容とは違った話だったが、先生の話は、一つの指針を生み出させてくれた。
 「貴方の立場だと、相談できない悩みもあるでしょうけど、少しは役に立ったかしら?」
 「ありがとうございます、桜井先生。本当に参考になりましたわ」
 私は笑顔を持って謝意を表したが、それは社交的に作ったものではなく、心からのものだった。
 山の端に日が没し、東の空に星が瞬き始める。話が一段落したところで、暗くなる前に寮に戻るよう言われ、庭園を後にする。学生寮に向かう帰り道、私は先生の言葉を反芻し、胸の内で呟いた。
 ―そう、私は全然納得してない。だからこのことはもう少し調べてみよう。



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