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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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第2章 疑惑-6

 心理的に不安があると、人は何かに心の拠り所を求める。不安の原因が何であれ、自分に自信が持てず、それを解消してくれるものがあれば、その存在に依存するようになる。例えば恋に悩む時の友達からのアドバイス、人生に悩んだ時、より良い道を示してくれる宗教、もしくは不安を紛らわせてくれるアルコール等がそうである。
 なかでも、重度の不安を抱え追い込まれた者は、自己の意思決定より優れた示唆を与えてくれる者に依存することがある。世間で言うところの洗脳とは、自分より優れた判断を下せる他者の意見に従い、まるで人のいいなりに動くような人間を差す。
 生徒会室で何を話し合ったにせよ、薫の意思を一変させるほど彼が優れた弁士だとは思えない。あるいは、何らかの弱みを握られて脅迫されているということもありうるが、そのような兆候があれば気付かないはずがない。
 生徒会長選挙で敗れたことが、私の思う以上に薫の負担となっており、その重圧から逃れるため、九条会長の考えが素晴らしいと思いこむようになったのだろうか。だが薫はそんな逃げの考え方をするほど弱くはないはず。でも、それなら一体‥
 「綾小路さん」
 落ち着いた声に名前を呼ばれ、私は思わず顔を上げる。こんな近くに人が車で気がつかないほど深く考え込んでいたとは。
 「どうしたの、こんな所で」
 「いえ、ちょっと考え事をしていましたの」
 髪を上品に結いつめ、モスグリーンのスーツを着こなした女性教師に、私は社交的な笑みを返す。
 「桜井先生こそ、どうされたのですか」
 「私は校内に生徒が残ってないかの見回りよ。まぁ、半分はお散歩かしら」
 ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて、私より七つ年上の女性教師は隣のベンチに腰を下ろす。 「随分思い詰めた顔してたけど、何か悩みごと?」
 少し心配そうな声に、心の中を見透かされたような気持ちになる。どうやら傍目にわかるほど思い悩んでいたみたい。なんでもない、と言っても通用しそうにないわね。
 先生とはクラスの副担任と生徒と言う間柄だが、二人きりで話をするという機会は今までなかったと思う。教育熱心な方で、生徒の相談事にも真摯に耳を傾けてくれるとの評判だ。確かに落ち着いた物言いに柔和な態度は、相談する側も話をしやすいだろう。
 薫のことを先生に相談してみるべきだろうか。私もまた心理的な不安を抱え、他者に心の拠り所を求めているだけかもしれないが、このまま思い悩んでいても、解決の糸口すら見つけられそうにない。しかしどこまで本音を語るべきか。躊躇いを覚えつつも、重い口を開く。
 「‥先生は、何か急な心変わりをされたことがおありでしょうか?」
 「えっ、どういうことかしら?」


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