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煌めきのした
【OL/お姉さん 官能小説】

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煌めきのした-6

12月の外気はそれほど冷たくは感じなかった。
1月、2月の方が実質的に寒いにきまっているけど、今日は彼に抱きついて歩くせいかも知れない。

東京の夜はどこもまばゆいイルミネーションに彩られ、道玄坂も白やブルーの電飾にあふれている。
私が彼に求めたものはこの最初で最後のイヴだったのだ。
彼には娘さんがひとりいて、こういう日はもちろん家庭で過ごすのだった。

そればかりは仕方ない事で、さすがの私も一歩譲っていた。

「ねぇ、キスしてよ。」

「こんなとこで?・・・」

「そう、こんなとこで。」

灯台もと暗しという言葉があるけれど私はイルミネーションが施された大きな街路樹の下に寄りかかり、彼にそう囁く。
囁けば耳元を寄せて、より顔が近くなるのだ。

「そうあせらなくても逃げだしたりしないさ。後でゆっくり・・・」

「いま欲しいのよ。」

こうなると望みのものをくれるまで私は聞かない。
しかたなく唇に軽くふれあうがおそらく、まわりの誰もが気にもとめてはいない事だろう。

「お嬢さん・・エリちゃんだっけ?・・いくつになるの?」

「もう十三かな・・・それが?」

愛人に娘の事を尋ねられて怪訝な表情になったかどうか・・・反射される彼の表情はよくみえなかった。

「十三かぁ・・・私ね。その頃に両親のセックスをたまたま見ちゃって、すっごいショックだった。」

「うん・・まあ、そんなものだろうね。」

「でも、そうして私も生まれたんだからしょうがないわよね。」

「そういう考え方もあるって事かな。でも、ご両親もたいへんだったろ?」

「気づいてないわよ・・・いまだに。」

「なんだ、そうか。」

「なんだって何よ。女の子にはたいへんな事よ。」

街路樹に寄りかかる彼に私も寄りかかる。コートを通しても微かな暖かさは伝わった。

「ここは寒いよ、そろそろ行こうか?」

ちょっと抱かれたい気はした。だけど私はもう決めていた。

「ここで終わりにしましょう。帰ってあげてよ、まだ間にあうから・・」

「どういう事だ?何も君を捨てようなんて考えていない、ちょっと様子をみるまで控えようって・・・」

「いいのよ。私決めたの・・生まれてきてほんとによかったと思うわ。」

しばらくまた、寄り添って歩きだした。
本当はあそこでおしまいにしたくて、胸の高まりをおぼえた。

「ほんとにここでさよなら・・・早く帰ってあげてよ。」

私は軽く手をあげてみせる。

「辞めちゃうのかい?」

「ううん、辞めない。その方がいいでしょ?」

彼はうつむく。もう一度帰ってあげてと私はいった。
そうして、彼が追ってくるのを恐れながら足早に駅へと歩いてもどったのだ。





あの手紙を書いたのは実は私だった。不倫の清算などというつもりはこれっぽっちもない。

頭のいい彼はどこかで気づいたかもしれない。
お嬢さんの名はエリちゃん。従姉妹と同じ名で覚えていた。
奥さんの名は知らない。彼がシャワーを浴びている時にそっと携帯を盗み見たのだった。

名前だけだったアドレスは私を含めて四人。そのうち沙椰香という名前を漠然と選んで宛名にした。
妹さんなんかの名前だったら一発でバレていたに違いないだろう。

もうひとつ思う事は奥さんはそんな真似をする人じゃないという事。
私が逆の立場だったら、たぶん彼の携帯を見ていただろうと思う。
せめてそんな奥さんに彼を返してあげたと思うと寂しさこそ残しても後悔はしないで済んだ気がする。

本当はコピーされたもうひとつの日常をもっと別のかたちで変えられないかと思っただけ・・というのが一番近いような気もする。
とにかく・・・明日は会社を休んでやろうと思う今年のイヴだった。

ー完ー


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